俺にキスしろ | ナノ
9


全てが戯れに思える。だってそうだろう?遊びじゃないなら、本気で欲しいなら、他の子を相手しようと思わないはず。俺を抱いた時に、優しく口付けしてくれてもいいはずだ。

なのに、古谷君は真逆だったじゃないか。

「蓮…」
「俺、すごく古谷君が好きだったんだよ。気付いてたでしょ?あんなに見つめてたんだ。講義中も、抱かれているときも。俺だけを、見てくれないかなって」
「…」
「でも、古谷君、俺以外も相手してた。知ってる?古谷君に抱かれた人はみんな男女関係無く誇らしそうにして自慢するんだ。この前なんて、ご飯食べてるときにわざわざ、言われた、古谷君のキス、深いんだって。俺は、そんなの、知らないのに…っ」

「…ああ、可愛い」


は、と思わず声を漏らした。泣きそうにまでなっていたのに。少ならからず怒っていたというのに、今、俺を見つめる古谷君から漏れた言葉は、あまりにも場にそぐわない。

だけど当の本人は、嬉しそうに俺の頬をその大きな手で包み込むと、顔を覗き込んでくる。

「ふ、るやく」
「可愛い、本当に可愛い」
「何言って、」
「可愛いよ、その表情が大好きなんだ」
「なに?」

嫉妬に焼かれそうな目。

「なっ」
「大好きだよ。それに、蓮の意識も視線も俺に向いてくれる。それが欲しかった。全部、そのための駒だ。蓮だけが大切。なのに、蓮ったら、妬いちゃって」
「や、めて」
「すごい、可愛い」

信じられない。唇を噛み締めて首を振れば、すぐに抑えられて、口に指を入れられて噛みしめることもできない。

「ああ、駄目だよ、可愛い唇に傷が出来る」
「んむ、ぁ」
「ああ、苦しい?」

引き抜かれた指は唾液で濡れていて、思わず目を背けそうになるが、顎を捉えた手がそうはさせてくれなかった。

「キスして欲しかったんだろ?」
「…っ」
「…キスはうるさいものを聞こえなくするための行為だって昔は思ってた。だから蓮にはしなかったっていうのもある。可愛い声が聞こえなくなるからね」

嘘だろ。まさか、そんな理由で?

「ああ、だけど、その紅い唇、本当に美味しそう」
「え…?」
「蓮が俺のものになったんだ。もう、他のを相手にする必要もないし、そろそろいいかな…」
「え、ンッ…」

覆い被さる影。
ずっとずっと渇望していたのに、いとも容易く塞がれた唇。

「んぅ…はっ、ぁ、ン…」
「…やっぱり本間の奴、許せないな」

さっきまで恐怖で震えていたくせに、息もできないくらい深く深く求められて、身体が甘く痺れる。好きな人にキスされることの快感を初めて味わったせいか、気持ち良すぎて何も考えられなくなってくる。

かけられた手錠をもどかしく思っていると、両腕を持ち上げられて、古谷君の首に回される。しがみ付くように抱き付けば、長い指が浮いた背中をいやらしくなぞった。

「あぁ…はぁ、ふ、るや、くん、ぁ」
「名前呼べって」
「あ、ンッ…ま、正樹、あ、好きっ」
「蓮っ」

好きだ。どうしたって、好きだ。

「好き、ぁっ、ね、正樹は、?はぁ」
「愛してるよ、蓮だけを、愛してる」
「ひ、ぁ…んぅ、はぁ、嬉しい」

誰が、おかしいって?
歯車が一つ狂ったとき、無事でいられる歯車はない。

おかしかったのは、何も、美しい彼だけじゃなかったんだ。



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