俺様的勧誘方法 | ナノ
ぷろろーぐ


とある男子校の昼休み。普段であれば賑わいを見せるはずの食堂では現在、とある二人の人物のやり取りにみんなの視線が集まり、その先の展開を見届けるべく、昼飯をつつく箸も動かさずに注目していた。


「おい、聞いているのか」

その中心にいる二人のうち、先程から青年の座るテーブルに両手をついて話しかけている男は、常日頃から注目される人物であった。
それもそのはず。その男ーー狩野 巽(かの たつみ)は、この学園の生徒会長である。それだけではない。彼の容姿は他の追随を許さぬほどに抜きん出て整っている。

さっと流した艶やかな黒髪と長身に見合う均衡のとれた肉体美。有機曲線を重んじる西洋文化の彫刻のように白く滑らかな肌に、薄く引かれた形の良い唇。スッと通った鼻筋は丁度良い高さであり、彫りの深い目元にある黒い瞳は射抜くように凛々しい。精悍でありながら儚さをも持ち合わせるその美貌に、惹かれるものは後を絶たない。

それは、男子校であるこの学園であっても同じである。閉鎖的な環境下、同性愛というものに目覚める者は少なくないと言う。


「きいてますよ」

そして狩野が話しかけていた、男ーー小林 律(こばやし りつ)は、平均よりも小さめの顔に切れ長気味の瞳、よく見ればまぁ男前な顔をしているが、縁のある眼鏡と癖っ毛の前髪のせいであまり目元が見えなく、総合的にみると平凡な顔をしている。律は周りが静寂を守る中、ずるずると音を立ててさっき頼んだラーメンを啜り、たっぷり時間をかけてもぐもぐと咀嚼してから目の前の美しい生徒会長をラーメンの湯気で曇った眼鏡越しに一瞥した。
そんな律の不躾な態度に生徒会長の狩野は…

「そ、そうか。なら良いんだ」

何故か満足そうに微笑み、ソワソワしだしたのだ。狩野の微笑みに周りが恍惚とした溜息を漏らす中、律は「はい」とだけ返し、またラーメンを食べる。そんな様子をニコニコと眺めていた狩野だが、少しして、ハッとしたように立ち上がる。ガタリと音を立てた椅子に、今度はなんなのだと律は再び狩野を見る。
目線の先には興奮したように白い頬を上気させ、バンっと音を立ててテーブルを叩く狩野の容姿のそのものは妖艶さを醸し出しているが、律はそれよりも荒い息の方が気になる。なんなの。

「ラーメンなんて食べている場合ではないぞ、小林 律」
「今は昼休みだからラーメンを食べるのは合ってると思います。それにこれ、味噌ラーメンですよ?」

律の言葉に周りの彼らは思った。だからなんなのだと。だが目の前の狩野、「それもそうだな。俺も味噌ラーメンは好きだ」と言って。大人しく座り直したのである。
そしてなんと、律が食べ終わるのを待つと言ったのは、我らが生徒会長。



「ごちそうさまでした」
「お粗末様だ小林 律!」

律が食べ終わったタイミングでまた立ち上がる狩野。椅子の音がうるせぇ、との律の舌打ちは狩野の声によって掻き消された。

「これで話せるな、小林 律」

フン、と腕を組み反り返る狩野は容姿通りに俺様感を醸し出してきた。ちょっと反りすぎではないかと思うが、そこはご愛嬌。

そしてやけに良い声が、食堂に響いた。

「小林 律、おまえを生徒会会長秘書に任命する!」

狩野の言葉に黙っていた周りがザワザワしだした。そりゃそうだろう。一年生である律が、前期で生徒会に誘われるだなんて。
ある程度ざわざわしたところで、律の返事を聞こうとする周りによって、また静寂が作られた。
そして律の答えは。

「いやです」
「っ何故だ!」

狩野は美しい顔を悲壮に歪めて律に詰め寄った。
そんな狩野に対して気持ち仰け反り気味の律は、少し目線を彷徨わせてから、狩野を見上げた。

「いや、なんでもなにも、そんな役割ないっすよね」
「…っ!」

なんてこった、と目を見開く狩野を余所に、周りの彼らは口を揃えて「確かに…」と呟き、各々の食事を再開したのである。律は、「ていうか面倒だし」という言葉を言わないようにごくんと飲み込んだ。


がやがやと本来の騒がしさを取り戻した食堂で一人、生徒会長である狩野は未だに悔しそうに床を叩いていた。

一応学校一の人気者なのだから、目の前ではやめて欲しい、と思いつつ

「味噌ラーメン、うまかった」

食堂のおばちゃんの料理の腕に関心を全て持ってかれた律なのであった。



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