10万hit記念小説 | ナノ
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「じゃんけんぽん!」
「…ふふ、僕の負けだね」
「じゃあ俺端に行けばいいんですね!」
頷いた三上先生は、俺が音楽室の端に移動したのを確認すると、壁の方を向いた。
遡ること十数分。楽譜の整理を手伝って欲しいと頼まれて手伝った放課後、案外すぐに作業が終わってしまったので、俺も三上先生もその後の予定がなくて暇だからとだるまさんが転んだをすることにした。発案者はミスター三上である。俺はなんでだるまさんが転んだなのかよく分からなかったが久しぶりに聞く言葉の響きに懐かしさを感じて賛成した。
そして今に至る。
俺は今だるまさんが転んだとゆったり言う三上先生へと音楽室の中をのそのそ歩いているのだが、彼は全然振り返らない。ワンフレーズにかなりの時間をかけている。言い続けている以上俺も止まれないから必然的に距離はどんどん縮まっていく。
「こー」
「…」
「ろー」
「タッチ!」
結局三上先生が一度も振り返ることなく俺は彼にタッチしてしまった。星屑ロンリネスも儚いもんだぜ。
「三上先生」
「うーん?」
「もー、ちょっと、すぴーでぃー、ぷりーず」
ちょっと英語には自信がないけど取り敢えず首を傾げながらそう言えば、ごめんね、と三上先生は笑った。
「せっかく栗島くんが僕のところに来てくれてるのに、振り返ってそれを止めるのは勿体無いでしょう?」
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