その青色に包まれて | ナノ
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【prologue】

小説家であるその男は自室で自分の仕事をこなしていたところだった。今時珍しく、パソコンではなく原稿用紙に鉛筆でストーリーを紡ぐスタイル。彼自身その方が落ち着くようだ。だがしかし、話が思い付かないのか、思うように筆が進まない。

切り替えるために深呼吸をしたその男は、何気なく窓の外を見て、息を止めた。
目線の先、マンションの屋上に一人の高校生が立っていた。何故高校生か分かるのか?それはその子が制服を着ているから。
もう既に学校が始まっている時間に何故そんな所にいるのかだとか、そんな事は直ぐには考えられなかった。

男はその高校生に見惚れてしまったのだ。

何か辛いことがあったのか、堪えるように空を見上げるその子に、目が釘付けになっている。思わず落とした鉛筆にも気を止めず、ただひたすら食い入るようにその子を見つめた。

そして見つめているうち、その子は足を踏み出した。そこで、我に返る。

あの子は飛び降りようとしているのだろうか。

その考えが頭に浮かんだ時、男は椅子から立ち上がり慌てたように靴を引っかけ走り出した。

とりあえず引き留めなければ。
引き留めて、あの細い体に抱えた悲しみを払いとってあげなくては。

咄嗟に思ったその思考に戸惑いを抱くこともなく、男はその子の元へと急いだ。


これはある一人の小説家が紡ぐ恋愛物語。

さて、男はどうやってその子を振り向かせるのかーー。



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「アオさん、これ」
「空詩ね」
「そ、そうたさん…」
「一目惚れだったんだ」

とある休日、俺は空詩さんの家に遊びに来ていた。
そして沢山ある中から見つけた本。嫌がる空詩さんに無理言って読ませて貰った。

あまり厚くないその小説を見つめる。全体のストーリーとしては、その高校生に惚れた小説家は、自殺をしようとしていたその子を説得して、前向きになったその子がきちんと学校へ行き、高校を卒業したその子と小説家が見事結ばれると言う、純愛ストーリーだった。

「最後はね、完全に俺の妄想。こうなったらいいなぁ、って思った願望を詰め込んだ」
「願望…」
「まさか自分の想いを打ち明ける日が来るとは思ってなかったからね」

愛おしそうに俺の頭を撫でる空詩さんにすり寄る。

小説の中の高校生は、女の子の設定だったが、屋上でのやりとりなど、全て俺と空詩さんのものだった。

ぎゅ、と手元の本を抱き締めながら、胸が熱くなるのを感じた。

「空詩さん」
「ん?」
「この続編、書かないの?」

たしか、空詩さんの編集者がそれを伝えにこの前来ていたはずだ。
それを思い出して首を傾けると、同じソファに座る空詩が笑う。

「書かないよ」
「え、どうして…」
「だって…」


この先は、俺達だけで紡いで、俺達だけが知ってればいいでしょ。


悪戯っぽく綺麗に微笑む空詩さん。
細められた青色に確かな熱を感じて、軽い目眩を覚えた。



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『その想いを包ませて』

著者:木下 ソウタ


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-fin.-

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