物の怪の恋/ギン乱







藍ギン表現あり




見上げた先の空は酷く青く、まるで矮小な己を嘲笑っているかの様に感じられた。太陽が白く薄情にボクを責める。

(君を忘れるなど、出来るわけがない)

瞼を閉じれば、暗い暗澹の視界に蓋を通して光が射す。この思いには何が残るのか。或は何も遺らないのか。 ああ、と息を吐くとギンは、己の膝の上でまるでお伽話のお姫様の様に眠る乱菊の髪を梳いた。金色は太陽の光を集めて暖かい。

(何の事は無い。ボクがただ臆病なだけだ、)

じくじくと、膿んだ傷口の様に完治はしない生々しい痛みが心臓をえぐる。浅ましい。藍染のあの冷たい指が、軽薄に愛を囁いた薄い唇が、躯の芯から零れ落ちるような熱情が、未だ己の内側で火照っている。閨の中で獣の様な性交を強いられてそれでも悦がっていた己が酷く汚く思えて、屈辱に指に力を込めた。

膝の上の乱菊が、ん、と小さな声をあげてうっすらと瞼を持ち上げた。涙に掠れた深い空色の硝子が此方を見上げている。

「…ギン?」

ああ、ボクはこの子を守らねば為らない。手中の玉の様に愛する訳にはゆかないが、生涯という短いものを賭けて護らなければ。ボクを含めて、醜く浅ましく悍ましいこの世界で彼女にだけは真っ直ぐでいて欲しかった。実際には彼女は何も知らぬ赤子でもなく、汚い世界の事を嫌と謂う程経験していたけれど。

(だから、さようなら。)


この世界でただ一人、君を、君だけを愛している。つう、と頬を伝った涙に気が付かない振りをしたのは、ボクに出来る精一杯の強がりだった。


物ノ怪の恋
(ねえ、ギン。何故泣いているの?)










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