ハレムに溺れた/藍ギン♀

藍ギン♀でアラビアンぱろ。






ぎらり、と照りつける太陽が痛い。砂と太陽の支配するこの王国では太陽が中点へ君臨するこの時こそが一日の内で一番厳しい時間帯である。ここ何週間も完全なる日照りが続き、流石に砂漠の下を巡る地下水も干上がるのではないかと心配したが、つい先日南部で降った雨のお陰でどうにか下流に水が流れ街全体、そして王宮ももまた青々と茂る木々を維持できたようである。たわわに実った果実に彩られた庭を十字に走る水路を横目に、幾重にも幾重にも張り巡らされたアーチをくぐり、藍染は大理石の床踏み締め、さらにハレムの奥へと足を進めた。

「嗚呼、其方は駄目」

「何もそんな所へ行かないでも…」

「そうよ、私たちがいるじゃありませんか、シャー」

ヴェールの奥から響く女達の甘ったるい呼び声に一瞥もくれず、長い衣の裾を引く腕を完全に黙殺する。ハレムの女達も馬鹿ではない。この国のシャーがいかな人物かを理解しているから、振り払うことすらもされなかった腕を唯々引っ込め、自身の宮へと戻って行った。緑色に溢れた中庭を中心にぐるりと円状に展開されるこのハレムは、風通しの良い渡り廊下をいくつも通し、小さな宮が連なるように建っている。丁寧に整えられた草木が生い茂り、惜し気もなく張り巡らされた水路に逆さまに映る宮の姿は太陽を浴びて金色に輝く。外部の砂漠からその門を潜った者は、王宮でこの世の楽園を知り、ハレムで天国を見ることになるだろう。尤も、ハレムに入れるのは女性か宦官そしてハレムの王宮のこの国の主であるシャーのみなのだが。蒼い石が幾何学に散りばめられたファサー ドを潜れば、ハレムの中で最も豪奢で最も他と隔絶された宮が現れる。特に壁や扉で隔てられている訳ではないが、其の宮だけはあからさまに他と違う。シャーの持ち物であるハレムだけあってどの宮も溜息の溢れる程に美しいが、この宮だけは格別だった。他の宮の様に色とりどりな訳ではなく、透き通る様な蒼天を思わせる青に唯白色を組合わせただけ。それだけだと云うのに、その美しさは際立っていた。八角に形作られた宮の最奥部に鎮座されている天蓋のついたベッドは、銀色の飾りを四方に張り巡らせ、これまた豪奢に文様を彫り込まれた高い天井にその糸を繋げている。 外からでは見透かす事のできないそれを藍染はそっと持ち上げた。

「ギン」

小さく寝台の主の名を呼ぶ。すると、寝台の奥でもぞり、と動く白い影があった。それが膝立ちで此方まで来る。頭に真っ白いヴェールを被り、口元にもまた白いシルクのヴェールを纏って、そして全身を覆う細やかな刺繍の施された白の綺麗な布を幾重にも重ねた服の下から伸びるのは、死人のそれの様な青白く細い指先。

「シャー、」

ヴェールの奥から響く、少し低い声から容易にその持ち主である彼女の薄い唇を想像出来た。

「元気だったかい、」

そう言い乍、ギンを覆うヴェールを剥いで行く。漸く露になった肌は他のどんな女よりも白く、まるで月の様だった。

「まあ、そこそこには」

にい、と薄い唇の端を吊り上げて笑う彼女はやはり愛しい。藍染は其を満足気に見て、その唇に己のそれを重ねた。割って入る生暖かな温度。ギンの肌は夜の様に冷たいから、逆に心地よかった。




(タージなる王宮)




アラビア的な藍ギンも萌えるのです。
気力があればまた

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