いとしい濁世/火青

「なあ、青峰。テメェが悪ぃンだぜ?」

抑揚の無い声はそのままに、男の深紅の瞳だけは怒りと、そして仄かな愉悦に燃えていた。豪奢な金細工の椅子に座った侭、男は床にまるで芋虫の様に転がる己をじ、っと見詰める。その大きな掌で、黒革の乗馬鞭を撫で乍、ほの暗く笑った。

「オレの言うコトを聞いてれば、こんな酷いコトされずにすんだのに」

裸同然の格好で無様に床に伏す己を、男は表面だけは悲しみに満ちた視線で舐める様に上から下へとなぞる。全部、男がしたコトだと言うのに。後ろ手に己を縛る麻縄も、引き裂かれて原型をとどめていないシャツも、血と精液でぐっちゃぐちゃになったズボンも、呼吸をする度軋むように痛みを教える青痣も。それでも、明確な意思をもって男の瞳を睨みつけてやれば、その炎が一瞬驚きに見開かれた後、再び愉悦に揺らいだ。ぶわり、と油を注いだ様にその炎の勢いは増し、男の鞭を撫でる嫌味な程に柔らかな手つきが止まる。

「なんで、他の男と寝たりする」

男は、背筋が凍る程の冷たい笑みでそう言うとおもむろに立ち上がり、コツ、コツ、と一歩ずつ近づいてきた。俺の直ぐ近く迄きて、止まる。靴先で、腹を蹴られてげほり、と胃の内容物を吐露した。けれど、既に胃の中のものはなく、口から溢れたのは苦い胃液のみ。粘りを持ったそれが俺の唇を伝い落ちる。数度その行為をまるで作業の様に繰り返すと男は手にした黒い乗馬鞭を振りかぶった。ひゅん、と鞭のしなる音。目を瞑るのと同時に、燃えるような痛み。上等な革が肌に触れた先はじっとりとあつく、熱を持っているかの様に疼く。「は、俺が、誰とナニしようが、俺の勝手だろ」掃き捨てるようにそう応えれば男は床に未だ痛みに呻く俺の髪を無遠慮にぐい、と掴むと平手で頬を打った。そして切れた唇から滴る血を指先で掬いとり、舐める。「いや、あるぜ?テメェは既にオレの所有物なんだからな、手前のモノが何処でナニしてるかは把握しておく必要があるだろ?」

[ 7/70 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -