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「おい、火神…まずいことになった。エドワードが、死んでいる」

日向が置いて言った無線からそう入電があったのは、彼が部屋を出ていってからおよそ二時間後の三時頃であった。青峰と今吉は既に自分達の部屋に戻っており、その報せを聞いていたのは火神だけだった。慌てて部屋を飛び出す。エドワードの部屋は偶然にして、火神の部屋の前だったので、ドアを開けば直ぐにエドワードの部屋が目に入った。エドワードの部屋の扉は開いた侭で、火神はどうしようか一瞬迷ったが、中へと足を踏み入れた。

「日向センパイ…?」

毛の長い赤い絨毯を踏み締めて、バスルーム、廊下、と順に巡ってゆく。そうして寝室に辿り付いたとき、微かな血の臭いに教われた。既にそこには日向がおり、険しい表情でベットの上を見据えている。火神もそれにならった。

「これは…」

真白いシーツ、いや嘗て真白だったシーツの中心にエドワードは置かれていた。いた、と表現するのが正しいのかもしれなかったが、既に息の無い彼にとってはどちらでもいい事のような気がする。寝ていたところを襲われたのか、服は着ていない。死因は見るからに、刺殺だ。それも手際が悪い。幾度も幾度も突き刺した後がある。これは死ぬのに時間がかかったことだろう。直ぐに死ねないといいのは酷なことだ。

「完全に素人の仕業だな…」

日向がぽつり、ともらす。素人、つまり裏社会に暮らす彼等ー赤司、青峰、緑間、黄瀬、紫原、の仕業ではないということ。と、なると犯行に及んだのは船員か、それとも、

「妻のディアナがいねぇ」

火神が来るより前に部屋に来ていた日向は、恐らくこの部屋中を探したのだろう。室内で殺された夫、姿の見えない妻。それから導かれる結論は限りなく一つに近い。

「取り合えず、他のスタッフに連絡を…火神、お前は部屋に戻っとけ。いいか、お前は此処で死体は「見なかった」んだ」

火神は頷く。火神も他の客と同様にエドワードが殺されている事を、「知らなかった」ということにしておく方が賢い。下手に「知っていた」と告げて、理由を言及されれば火神が警官だと言うことがばれてしまうかもしれない。日向の言葉に従うことにした火神は静かに自室へと引き下がった。


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