「きんきょーほうこく」

精巧な細工の施された長椅子に、躯を投げ出して女はいう。背後に四人の男を侍らせて自身は卓に並べられた果物に手を付けた。夜空を写し取ったような群青の髪、深い青のチャイナドレスのスリットから惜し気もなく晒された脚は艶かしい。けれど、彼女ー青峰こそが大姐と呼ばれる麻薬王。

「最近、シマで意気がってた奴等、どうなったん?桜井」

口を開いたのは30程のまだ若い男。眼鏡の奥で光る細い瞳が彼の雰囲気をよく顕していた。桜井と呼ばれた男が恐縮しきった様子でそれに応える。

「スミマセン、今吉さん。その件なら若松さんが処理しましたスミマセン」

謝りながらも紡がれる言葉は物騒極まりない。

「ああ。奴等ならバラして沈た」

話を振られたのは屈強な肉体を持つ男、若松。色素の薄い髪を短く切っている。青峰は果物を咀嚼する口を休めぬまま続きを促す。

「奴等は「蛇腹」チンピラばっか集めた勢力とも云えない小物。うちのシマ荒らしてたのは単にこっちの世界のルールをよく理解して無かったんだろ。どっちにしろ、今頃は纏めて魚の餌だ」
「へー」

さして興味なさそうに青峰は若松の話を聞き終える。摘まんだ葡萄を一つ、房から捻切って口に運んで、行儀悪く口に含んだまま話題を替えた。

「じゃあ、警察の方はどうなった?何かスゲー新人が来たんだろ」
「火神大我25歳、ICPOの期待の大型新人。なんでも復讐のため自らマフィアの捜査を希望した酔狂な男や」

すかさず、今吉が応える。今吉は「地獄耳」を称される程の男だ。本腰を入れて調べずともすらすらと情報が出てくる。そして彼はその力を全て桐皇にー正確には青峰の為に捧ぐ。一言でいえば愛だった。それはこの場にいる四人の男全員に共通する事実。いや、四人だけでなく桐皇に属する男達は皆青峰に毒された奴等ばかり。

「へー、有難う今吉サン」

またしても青峰は興味なさげに呟くが、今吉にしてみればそれは十分に予想の範疇内で寧ろ子供っぽいその仕種に一層の愛しささえ覚えた。ふあ、と欠伸をもらす青峰にもう眠いのかと今吉が問えばその通りだと言わんばかりに頷いて諏佐を呼び寄せた。

「寝る、あと豪華客船で南の島いきてー」

そんな気分、と半ば眠りに落ちた様に言葉を紡ぐ青峰を、諏佐は姫抱きにすると続きの部屋にある寝台へと運ぶ。

「うちの女王様は相変わらず自由自やなあ」

寝室へと消えてゆく二人を見送った今吉は、口ではそう嘯きながらもスーツの胸元から携帯を取り出すと早速「豪華客船の旅」を手配させた。






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