赤司邸玄関ホール。表向きはカジノ王として幾つものカジノを経営する赤司の屋敷は豪華の一言につきた。その玄関ホールもいうまでもなく、白大理石で造られたホールは此処で舞踏会くらい開けそうな勢いだった。

「兄様」
「なんだい、テツナ」

水色の髪をした線の細い少女が、赤い髪の青年の手を引けば青年はいかにも優しげな声音で少女を振り返る。青年の左右で色の違う瞳が細められた。

「帰りがけにバニラシェイクを買ってきてください」

テツナと呼ばれた少女はこれから出掛けようとしている兄におねだりをする。別に兄になど頼まなくとも、簡単にバニラシェイクを手に入れる事ができる。これが例え何百ドルする宝石であっても同じこと。ただ、広すぎる屋敷にいる誰かに声をかければいい話。テツナはこの屋敷の主が目にいれても痛くない程に可愛がる妹なのだから。それをしないのは、普段忙しく仕事に駆け回る兄に甘えてみたいから。

「いいとも、必ず買ってこよう」

それと、最凶と称されるマフィアのボスにバニラシェイクのお使いを頼めるという優越感から。世界広し、闇社会深しと言えども兄にこんなことをねだれるのは自分しかいない。そんなテツナの意思を読み取ったのか満更でも無さそうな顔をして青年は微笑む。

「じゃあね、良い子にしているんだよ」

ちゅ、とテツナの額に唇を落として、兄ー赤司征十郎は出掛けて行った。

数時間後、兄がバニラシェイクだけでなく「旅行にいこう」と既に購入した船券を伴って帰宅することをテツナはまだ知らない。




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