青桃三つ

光は彼自身であると共に、彼を蝕む敵だ。

壁に闇が不安定に揺らめいている。ランプの光が徐々に細くなり、すう、と消えた。彼がその瞼を閉ざし、完全に眠りの海へと落ちたのを確認して、一つ、息をつく。深い海を思わせる彼の髪を指で軽く梳いて、彼の右手を握った。睫が微かに震える。それでも開かれることのない瞼の向こうで、 彼はどんな夢を見るのか。眠る彼の顔は酷く幼い。眉間の皺がないからか、それとも彼の気負う全てから開放されているからか。

「おやすみ、大ちゃん」

小さく呟く。彼の見る夢が穏やかであれば良い。闇の中だけは彼の安らぎで有れば。強すぎる自身の光に何もかもが見えなくなる事が、現実に彼を蝕んでいたとしても、せめて、夢の中だけは彼の安寧であれば、良い。

「良い夢を、見てね」





青桃
彼の夜は決して明けなくて、彼は今も膝を抱えてひたすら孤独に耐えている。彼の名前を後ろから呼べば、俯いていた顔を上げて首をぐるり、と巡らしてこちらを見た。彼の唇が私の名前の形に開かれる。

「さつき」

平坦な声音が夜闇を震わす。私の淡い桃色が彼の深海を思わせる双眸に映り込んでいた。心の欠片がぼろぼろと、指の隙間から止め処なく零れ落ちて。私はそれをとめる術をしらない。私は輝く光には為れない、彼の様に見るもの全てを惹き付ける太陽には為れない。だから、私はきっと、彼の痛みを理解出来ない。

「何泣いてんだよ、さつき」

気が付けば私の目から、涙が溢れていた。ぽろり、ぽろり。彼がその褐色の手を伸ばして私の頬に触れる。乱暴ともとれる仕草で強引に涙を拭った。昔から変わらない、彼の優しさのかたち。

「いたいよ、大ちゃん」
「うっせぇ、泣くなよ。余計ブスになんぞ」

大ちゃんが泣かないから、泣くんだよ。私も泣いたんだから、大ちゃんも泣きなよ。声をあげて泣き崩れて、全てを曝け出してもいいんだよ、なんて。私の前でなら泣いても大丈夫、なんて。言えたら、良かったのに。





青桃
あたたかくて、めがまわる。その褐色の肌に触れることを、彼がどうして許してくれているのか、わからないかった。絶望しても、捨てきれなかった彼の大切なものを守る為の身体に、私なんかがベタベタと触れていいのか戸惑ってしまう。彼の身体は、彼は、間違いなくバスケ界の至宝だ。誰もが待ち望み、焦がれることとなるスーパースター。身内の贔屓目もあるかもだけど、私は純粋にそう信じている。

「大ちゃん」

幼い頃から彼が与えてくれた沢山の優しさのどれとも、これもが、酷く眩しい。皆の特別である彼の、特別が私。誰も彼もを惹き付けて止まないその背に、触れる唯一の権利。理由はわからないそれらを、私は決して捨てはしない。








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