ギン乱
▽ギン乱
とくん。
頭を押し当てたギンの薄い胸から一定のリズムが聞こえる。とくん、とくん。幽鬼の様に得体の知れない彼も確かに生きているのだと実感する瞬間。何時もこの手から摺り抜けて仕舞う彼を捕まえた様な気になる時間。
「なんやの、」
不機嫌な様にもぶっきらぼうな様にも感じる、彼の声。だけれど、乱菊は知っている。彼のこう云う態度はただ照れているだけなのだと。
「何でもないの」
甘えた様に彼の方にもっともっと擦り寄ると、彼は仕方ないなぁ、とばかりに私の頭を撫でた。彼の細い節榑立った指が優しく優しく、幼い子にするように私の長く伸びた髪を梳く。まるで昔に戻ったみたいだった。
(心臓の音が、彼の気持ちを運んでくれたら良いのに)
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