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食堂内はちょうど夕食時だからか一目見ても混んでいることが分かる。いつもならそれだけで空腹がどこかに行くほどうんざりして踵を返すのだが、今日は違う。
遥がインスタントではないラーメンが食べたいと言ったからだ。

食堂の広さや人の多さに感嘆したようにしきりにきょろきょろと辺りを見渡している彼の腕を引いて食券売り場に連れていく。
強烈にわかりやすくこちらに向けられる無数の目。俺の隣にいるのが誰か皆気になるのだろう。
並んでいた生徒が何人か「どうぞ!」と緊張した様子で順番を代わってくれる。
女の子たちにきゃあきゃあ言われるのも嫌だったのに男子校にきてまでなんで騒がれなきゃいけないんだと辟易してはいるが、こういうことがあると少しラッキーだなと思ってしまうのだから俺は現金な人間だ。

どうやら俺は人に好まれる顔の造りをしていたらしい、と気が付いたのは遥と離れてからだ。遥は俺などよりよっぽど格好良くて綺麗な顔をしているし、性格も明るくて優しい。
俺たちを見て騒いでいた女の子たちは皆遥のことが好きなのだと思っていたが、そういえば俺もたまに告られていた。

「遥、遥。ラーメンどれ食べるの?」
「おっ、あれ? 順番進むの速いな?」

先に行かせてくれた人たちに軽く会釈してまだ意識がこちらに戻ってきていない遥の肩を叩く。ようやく高い天井に向けていた視線を下げた彼はすでに目の前にある券売機に驚いた様子だった。

「うん、順番代わってくれた人がいるから」
「えっ、そうなん? ありがとうございまーす!」
くるっと後ろを振り返ってお日様のような笑顔を見せる遥。お礼の言えるいい子です、と幼馴染バカな発言を胸の内で呟く。

「いえいえっ、そんな!」
「まだ決まってなかっただけですから!」
「そうなの? でもありがと」
顔を真っ赤にした生徒にもにっこり。俺は少し唇を尖らせて遥の服を引いた。

「ん、どうした彼方くん」
「初っ端から誑し込まないでくださーい」
「わお、それは誤解だ俺が誑し込みたいのは君だけだよハニー」

ぱっと両腕を広げてから俺の肩を抱いてくる。身長が同じだから肩が組みやすい。
芝居がかった口調がおかしくて笑ってしまう。

「ははっ、俺を誑し込んでくれるの?」
「そうそうラーメン食いながらね。俺、塩にする! 彼方は?」
「俺は豚骨ー。あっ、おごるわ」
「えっまじで?」
「うん再会記念。安いけど」
「わーいサンキュー!」
頷いて2人分の食券を買い、振り向いたところでぽかーんと俺たちを見るいくつもの目の存在に気が付いて少しだけきまずくなった。
すぐに遥しか見えなくなるのはちょっと悪い癖かもしれない。




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