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「あー美味しい。まじで久しぶりだわラーメン」
「あっちで食べれなかったの?」
麺を呑み込んでから尋ねる。ごくごくと水を煽っていた遥はコップを置くと勢いよく頷いた。

「日本式のラーメンたっかいの。和食もさあ、母さん頑張ってくれてたけど、ほら、調味料とかそろえるの大変で。近所にそういうスーパーなかったし」
「あーなるほど。じゃあしばらくは遥の好きなものいっぱい食おうな」
「うん!」
「にしても遥が横に広がらなくてよかった」
「それな!ファットマンにならないように筋トレが習慣化した」

神妙な表情でそんなことを言う。
笑い声をあげた俺は、突然遥の後ろ辺りに立った男が驚愕の表情でこちらを凝視していることに気が付いて、「げ」と声をあげた。

「えっ、あれ、マジで彼方? 偽物?」
「偽物じゃないけどあっち行って。しっし」
「おいひどくね親友に対して」
わざとらしく拗ねたマネをするこの男は一年の時から同じクラスの米木だ。赤い縁のメガネをかけた少々うざったい性格の持ち主。友人ではあるが親友とまではいかない。
はあ? と俺が鼻で笑うのと同時くらいに遥が「えっ親友?」と声をあげて振り返った。米木が驚いた顔で遥を見つめる。

じっと真顔で米木を見返した遥は、俺を振り返って眉を下げた。

「……、親友なの?」
「あああ違う! ただの友達! そんな顔しないで遥っ」
「えっひどい」
「俺からしたらひどいのはお前だから! 遥しょんぼりさせやがって!」

くそが!と罵ると米木は頬をひきつらせたが、こいつはそんなことで傷つくようなタマではないのだ。
現に今も「なになに〜この見慣れぬイケメンくんとどういう関係なのー」などと言いながら遥の隣の椅子を引いてちゃっかり腰を下ろしてきた。

眼鏡割っていいかな。

「――友達か。びっくりしたあ……。俺より仲いい人できちゃったのかと思ったよ」
「ないないない一生有り得ない」

ほっとした顔で笑ってくれた遥に俺の方がほっとしながら全力で否定する。そんな俺を米木は奇怪なものを見る目で見てくる。

「まじで彼方どうしちゃったわけ? なんでそんな別人? さっきもにこにこしてたし」
「おともだちくん何言ってんの? 彼方は昔からきらきらスマイルくんだぞ?」
「えっ」
「えっ」
話がかみ合わないというようにきょとんと顔を見合わせる2人。次いでこちらに向けられた目に俺は肩を竦めた。

「遥いないと楽しくても楽しくないからニコニコできないの、元気も出ないの。仕方ないでしょ?」
「え? あの、いやいや―ちょっとお聞きしますけどお二人のご関係は?」
「超絶大事な幼馴染」
俺の言葉になぜかひそひそ声で問いかけてくる米木。答えたのは笑顔の遥だ。

「幼馴染?」
「そ−。俺らずっと一緒だったんだけど俺がアメリカ行かなきゃならなくなって離れちゃってたんだよ。んで、俺は彼方にあいたすぎてこの学園に編入したのです」
「それはまた―すごいけど、微妙な時期の編入じゃない?」

胸を張った遥に眼鏡の奥の目を丸くしながらもそう返す。確かに今はゴールデンウィークが明けた5月中旬という、編入には微妙な時期だ。
会えた嬉しさでそういうことが全部飛んでいた。

「ああうん、やっぱ国を隔ててるからかいろいろ手続きに手間取ってさ。まあ俺は彼方に会えたからその辺はどうでもいいんだ!」
「おおう、彼方大好きなんだね〜。えーと遥?くん?」
「あっ、名前言うの忘れてた。俺、瀬尾遥でーす。よろしくお友達くん。俺とも仲良くしてね」
「うんよろしくー! 米木慎吾です、慎吾くんって呼んでね」
「はあ? ダメだし! 遥、こいつのことは米木でいいから!」

いきなり馴れ馴れしすぎ! と米木を睨むと噴出して笑われた。

「やっべえ、彼方のキャラが違いすぎて笑える! お前のでかい声初めて聞いた!」
「え、まじで? 今までの彼方どんな感じだったの」
「聞きたいか、遥くん!」
「聞きたい聞きたい!」
「遥、ラーメン伸びるよー食べてはやく部屋帰ろうよ〜」

いちゃいちゃしようよー米木邪魔ー。そんなふうに拗ねたふりをしてみたけれど、遥はどうしても遥不在中の俺がどんなふうか聞きたいらしく「待って彼方お願い!」などと言われてしまったので、俺は食い下がるのはやめた。
遥のお願いだし。聞きたいの俺のことだし。ちょっとだけ我慢しよう。と、飯を食いながら喜々として話し出す米木をジト目で見るに留める。

うん、でもこれからいつでも一緒にいられるのはやっぱりどうやっても嬉しくて仕方がないことだ。





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