2



しばらくくっついたまま話をして、さてそれではベッドに行こうかとじゃれあいながらリビングを後にした。

「へいかもん、ハニー!」
「いえす!」
薄い空色のベッドカバーをかけた清潔なベッドにダイブして彼方に手を差しのべ、ばたーんと上に倒れ込んできた体を受け止める。
もちろん彼方は自分でベッドに手をついて全体重がかからないようにしているので押し潰されることはなかった。

「遥、明日は朝に職員室?」
「うん、そう言われてるー。あと教科書類は部屋に届けてくれるけど、明日になるらしい」
「そっか。俺、遥のこと職員室まで送ってくからね」

片肘をついてこちらを向いた彼方がじっと俺を見る。なんですかその表情は俺が一人で行くとでもお思いか。
「もちろん送ってもらう気満々ですぞ。頼んだよカナちゃん」
「うん! ハルちゃんらぶー」
「俺もカナちゃんらぶー」

硬く筋肉のついた胸に額をすりすりすると、くすぐったいと笑って頭を抱き込まれた。
はあいい匂い。言っておくが俺は変態ではない。くんくんしたいのは彼方だけだからだ。
二人の体に布団をかけた彼方が、寝やすい体勢を探すように身を捩って枕を引き寄せた。大きい枕なので2人で寝るのも余裕だ。

「遥、お休み」
前髪をかきあげられて額にちゅっと柔らかい感触。俺も少し伸びあがってすべすべした頬にキスをした。
「お休み、彼方。大好き」
「うん、俺も大好き」
電話越しだった就寝の挨拶を間近で聞けたことに大変満足する。
それに、風呂上りであってもあまり体温の上がらない彼方の体に俺の体温がじんわりと移って同じ温かさになっているのも幸せだ。

きっと今日の夢見は最高だなと思いながら目を閉じた。

▽▽▽


寝起きの悪い彼方を起こして、今日は適当に二人で用意した朝食を食べた。
制服を着るという懐かしい行為を経て―ネクタイは分からなかったので彼方に結んでもらった―、俺たちは仲良く寮を出た。

「彼方、ブレザー似合うな」
「え、本当?」
「うん、学ランもよかったけどやっぱ彼方はブレザーだな」
「遥はどっちも似合う」
ふふ、と笑って軽く触れあった手をそのまま握ってくる彼方。俺も緩くその手を握り返す。

「彼方どんなんでも俺のこと褒めるからなぁ」
「あーそれは聞き捨てならない! 俺は遥バカだけど盲目ではないですよ」
「はいはい」
ちょっと流すなよ! と声を上げられて笑ってしまう。同じように登校中の生徒が物凄く珍しいものを見る目をしてそんな彼方を見ている。
そういえば再会して大喜びしてた時もこんな風に見られていたなあと思う。彼方が人気者であることと、友達の米木くんが言ってた通り今までの彼方と全然違うことが理由なのだろう。
あーあ、俺も無気力な彼方見てみたい。俺がいないとあんまり笑わないとか可愛すぎでしょ。

視線をものともしない彼方に合わせて俺もそちらには気を向けないことにする。
一緒に登校するのが嬉しいと言うと「俺も」と甘く微笑まれた。少女漫画的キュン体験である。

少女漫画読んだことないけど。






back