My heart in your hand. | ナノ


▼ 13

ベッドに横たわって布団を引き上げる。枕に頭を沈めながら、俺は先輩を見た。すぐに視線に気付いた先輩は優しい手つきで俺の頭に触れる。
寝ていたせいでもつれた髪をそうっと梳かれる。

「昼、何か食べたか」
無言で小さく首を振る。
そうだ、薬を飲まなければならない。嫌なことを思い出す。

「温かいのと冷たいの、どっちならまだ食べられる?」
また岩見がくれたゼリーでいいかなどと考えていた俺は、その問いかけの意図が分からなかった。答えないまま見つめていると、先輩は持参していた買い物袋を持ち上げてみせる。

「何食えるかわかんねえから、色々買ってきた」
「わざわざ……、ありがとうございます」
申し訳ない気持ちになってすみませんと言いかけたのを、感謝の言葉に変える。あんまり謝っていると先輩に困った顔をさせてしまうから。
あとは、遠慮するなと言ってくれたのを思い出した、というのもあるし、本当のところ気遣いが嬉しいのもある。
ともかく、問いかけに対する答えを考える。
冷たいものと温かいもの、食べられるとしたらどっちだろう。体は火照っているから冷たいものが食べたいような気はするが、内側はぞくぞくしているような変な感じだ。

「温かいものがいいです。あと、喉が痛いから食べやすい、ものだと……」

話しながら我が儘を言っている気分になって、気恥ずかしさと居たたまれなさが押し寄せてきた。心臓の辺りがむず痒い。誤魔化すように傍らにあった抱き枕を手にとる。
目だけでそっと先輩を窺うと、彼は何でもないことのように破顔して、くしゃくしゃと俺の髪を撫でた。

先輩がよく撫でてくるから、だんだん撫でられることに抵抗がなくなってきている気がする。突然触られても驚かないし、そんなに恥ずかしくもならない。彼がどういうつもりで撫でているのかは分からないけれど。俺が年下だからだろうか、と前にも考えたことを思う。恐らくそうなのだろう。

「よし、任せろ。キッチン借りてもいいか?」
「あ、はい。あまり触らないから、鍋とかどこにあるか全然わかんないですけど、」
「ん、適当にやるよ。お前はいい子で寝とけよ」
いい子で、と言ったとき指の長い手が額に触れた。薄い掌は、少し冷たい。
「……はい」

明らかに子供扱いをされた気がするが、それほど嫌でもなかったから大人しく頷くに止めた。キヨ先輩は少し乱れた布団を直して、俺の首もとまで掛けると袋をもって部屋を出ていく。
その背中を目で追ってから、細く長く息をついた。

――驚いた。風邪だと聞いたからといって、わざわざ来てくれるなんて。
恐縮する気持ちは確かにあるのに、先輩の優しさが嬉しいと思う気持ちの方が強くて戸惑う。

先輩はドアを薄く開けたままにしていた。だから気配と微かな物音がこちらまで届く。それが心地よくて、なんとなく懐かしいようで、耳を傾けながら俺はまた目を瞑った。


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