My heart in your hand. | ナノ


▼ 22

ゆっくりとなんとか各階を回り終えて自分達の教室に戻ってきたところで、意外なほどの盛況ぐあいに驚かされた。用意されたテーブル席はほぼ埋まっている。

「わりと人入ってる」
「なー! てか、俺らが宣伝頑張ったからじゃね!?」
「そうならいいな」
言い交わしながら、一旦教室の隅にある衝立の裏に行く。そこで足を組んで椅子に座っていた金井がこちらを認めて、ひらりと片手を挙げた。

「お疲れ、宣伝係」
「あっ、金井! なあなあ、これって俺らの宣伝効果かな?」
「おー、そうなんじゃね? すげえじゃん、二人共」
「やったぜー!」
「金井は何やってるんだ」

片手に紙、もう片方の手にボールペンを持ち、なにかを書き付けている様子だ。問いかけると金井はくるりとペンを回した。
「ああ、これな。割り箸とかもろもろ、このままだと後半には足りなくなるだろうから、貰いに行かなきゃなあと思って。必要分書き出してんの」
「貰いにって、どこに?」
「実行委員会の本部」
「体育館?」
「おう」
「俺、行ってこようか!」
椅子に腰掛けた川森が、素早く挙手をして主張する。目を瞬いた金井は川森ではなく俺の方を仰ぎ見た。

「行ってくれたら俺は別のこと出来るし助かるけど、でも今日のお前、江角とニコイチだろ?」
「別にずっと一緒にいる必要はないし、行ってくればいいんじゃね。川森はライブが見たいんだろ」
「あ、バレた?」
にへっと幼げに笑う相手に、軽く頷く。先程、二年生の階を歩いている時に、部活の先輩だと言う人から、自分がボーカルをするので見に来てくれと誘われていたのだから、バレるも何もない。

「なんだ、親切心かと思った」
「えへへ。ついで、ついで」
「まあいいや。じゃあ、心置きなく頼もうかな。昼までにこっちに持ってきてくれりゃいいから、間に合うだろ?」
「おう! 先輩の出番、昼前だから」
「よーしよし、じゃあ行ってこい、川森。いいか、ライブにテンション上がって、貰うの忘れて戻ってくるとかやめろよ」
メモを差し出しながらの忠告に、ぴっと敬礼した川森は、跳ねるような足取りで教室を出ていった。

さて、俺はどうしようかと黒板の上にある時計を見上げる。案外、ゆっくりと歩き回っているうちに時間が経っていたようだ。十一時を少し過ぎている。


「江角、今結構人入ってるし、客寄せしなくてもいいんじゃないか」
「やっぱ? でもすることもねえな……」
金井と言葉を交わした後、手が足りないところがあれば手伝いでもしようかと表に顔を覗かせると、ちょうど同じように教室を覗き込んでいる岸田を見つけた。
風紀委員の腕章をして、クラスTシャツと制服のスラックスという格好だ。

「岸田」
「あ、江角」
「お疲れ、一段落したのか?」
「ああ。だから、今のうちになんか食っとこうかと思って、一旦戻ってきたんだ」
「そ」
「江角は?」
「俺は、今やることがない」
「じゃあ、一緒に焼きそば食いに行かないか」
焼きそばというと、岩見のクラスか。もともと行くつもりだったので、「いいよ」と頷く。

一応、委員長に許可を取りに行くと二つ返事で了承されたが、昼過ぎからは教室の前で呼び込みをしてくれと言われた。
クラスメイト達は忙しそうだが、同じくらい楽しそうにしている。俺も貢献すべきだろうし、頑張ろうと思う。


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