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「お前は人に関心がない」
「指をさすな、指を。あるし」
「うっそ、じゃあ俺が巨乳派か貧乳派かって話する? 聞きたい?」
「なんでそんな話になるんだ。全く聞きたくない」
「ほらー!」
「判断材料がおかしいだろう。俺にそういうこと振ってくる奴なかなかいねえよ」
「あー確かにお前に下ネタふったらさげすまれそうだし」
「そう思ってるのにふってくるんだな」
「まあな!」

川森がけらけらと笑うのを呆れながら眺めていると、黙っていた金井が「それで? 好きな人がいるってのは本当なのか?」と話の軌道を修正した。

「あっ、そうだった。聞きたいのはそれだった! なんで胸の話になったんだ?」

川森だけなら流すことができたと思うし、少なからずそうしようとしていただけに、はっとした顔をしてから身を乗り出してくる川森から身を引きつつ、金井にじっとりした視線を向けてしまう。堪えた様子もなくにやりと笑われたが。

「―答える義理はない」
「えー、友達だろ!」
「え?」
「えっ嘘。違うの!?」
本気で驚いた顔をするから、おかしくて笑ってしまった。すると今度はあからさまにほっとした顔をする。

「江角、意地悪だぞ! 俺にも岩見に接するみたいに優しくしてくれ」
「それは無理」
「なぜ!」
「岩見は特別だから?」

適当に答えると、川森はなにかを察したような様子で急に声をひそめた。

「もしや、岩見と友情から恋への発展」
「有り得ない」
「即答で切り捨てられたな。」
「じゃあなんだよー!」

机に伏せた川森の頭を金井がぺしぺしと叩く。好きな人は誰か、なんて話題そのものが苦手だし、言う必要もないと思う。
さてどうしたものか、と考えていたら、手の内でスマホが短く振動した。メッセージが届いたのだ。川森は放っておいて、画面に視線を落とす。キヨ先輩からだ。

[じゃあ夕飯の後にな]
先にしていたやりとりの続きの、その短い文章にすぐ、尻尾を振っている犬のスタンプが続いて、つい緩みそうになった頬を引き締める。了承の返事をしてスマホをしまい、顔を上げて驚いた。川森と金井がじっとこちらを凝視していたのだ。

「な、んだよ」
「江角、今めっちゃ嬉しそうな顔してた! 好きな人!?」
「は? してねえよ」

多分、嬉しそうな顔をしてしまったのは本当だと思うが、指摘されると気まずいのでそっけない返事をする。

「嘘だろ! なあー、いいじゃん、江角! やっぱいるんだろ、好きな人。言いふらしたりしないって」
「どうでもいいだろうが、俺のことなんて」
「よくないよくない。興味ありまくり!」
「うぜえな」
「江角、こいつは答えるまで纏わりつくぞ」
「うぜえな。金井、なんとかしろよ」
「無理。俺も知りたいし」
味方がいない。俺は少し考えてから口を開いた。

「好きな人がいるって断ったのは、本当」
「まじか! 誰?」
「……秘密」

結局それ!? と叫ぶ川森に笑って、授業が始まると声をかけたところで丁度チャイムが鳴った。




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