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「―委員長、完全に不審者を見る目だったよな。てかちょっと怒ってなかった?」
「やっぱ……? 」

黙っていた北川がしみじみと言う。俺は恥やらなんやらが色々混ざってちょっと肩を落とした。しかしすぐに先程江角くんに話を聞かれていた衝撃のあまり流してしまっていた情報を思い出してはっとする。委員長のことを気にしている場合ではない。

「え―ま、まって??そういえば 江角くん、パンツの色教えてくれたんだけど……」
「そうだな」
「え? やば……。聞いたら教えてくれるの? え、じゃ、じゃあもしかして犬歯見せてって言ったら不思議そうにしながらあーんってしてくれんの? え、え? やばい……」
「やばいのはお前だ。犬歯ってなんだよ、 マニアックが過ぎる」
「何もわかってない江角くん……、いいよね……」
「―もう黙れ。委員長に不審者扱いされてんだからちょっとは懲りろよ……」

俺の欲望溢れる言葉を江角くんの耳に入れてしまったことについては反省するが、俺はあくまで江角くん推しだし江角くんが嫌がる様子を見せなかったのだから、委員長の視線一つで懲りたりはしない!江角くん万歳!!

―ああ、けれどさっき分からないことに答えるなと言われたのを江角くんは了承していたよな。ということは俺の妄想は実現しないのか? だって江角くんは約束を守る人だと思う。お願いする機会が万が一あったとしても委員長がだめって言ってたからやだって言われそう。あ、すごい想像できる。
委員長が、北川が言ったみたいにパンツの色を教えちゃダメって言うだけなら良かったのに……、ん? つまり俺が、江角くんは口開けてってお願いしたらなんで? って顔しながらもやってくれそうと思ったのと同じようなことを委員長も考えたってこと? そうじゃなかったらあんな全般禁止みたいなこと言わなくないか? 考えすぎか?
まあどっちだとしても結果は変わらない。俺はきっと江角くんに犬歯を見せてもらうことは出来ないのだ。

「ああ、委員長のガード力が高い……」
「そりゃそうだ。可愛い後輩がお前みたいな変態の餌食になるのを黙って見てられないでしょ」
「誰が変態だ。」
「お前だよ」

辛辣な扱いに不満を抱きながら、江角くんたちが座った奥の席に視線を向ける。残念ながら江角くんはこちらに背中を向けており、俺に見えるのはその向かいに座った委員長、じゃなかった元委員長のやたらと端整な顔だけだ。

彼は穏やかな表情で江角くんと何か話している。ああ、江角くんは後ろ姿も格好いい。背筋が真っ直ぐに伸びていて、ちゃんと必要な筋肉がついていそうだ。思わず服の中身に思いを馳せてしまって、やばいこれでは本当に変態のようだと首を振ったところで、俺は彼らの方を二度見した。

江角くんが手の甲がほとんど見えないくらいにカーディガンの袖に覆われている手を伸ばして、元委員長の前髪の辺りに触っていた。何気ない仕草でその指先が髪を横に流して、離れる。
委員長は笑いながら江角くんが触れた前髪(重要)に手をやって何か言う。髪が伸びたとかそういう話でもしているのだろうが、俺にとっては江角くんがあの人に触ったことが衝撃だった。
だって、ちょっと、なんか親密じゃないか? 江角くんから触れられるなんて親密すぎるではないか?




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