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「なんれすか」

「んー? ふふふ。楽しいなぁって」


なにが楽しいのかさっぱり分からないが、後ろから豹牙先輩と話しながらこちらへ歩いてきた玲央を見つけて、思わず安心してしまう自分の乙女加減が嫌だ。


「ね、小虎くん」

「はい?」


くすり。また、いつもの人の悪い笑みを浮かべた司さんが、もうすぐ近くまで来ていた二人には聞こえないようにこっそりと、


「結婚、おめでとう」


と、囁いた。


「……は?」

「玲央に伝えといてね、じゃ、おやすみ小虎くん。メリークリスマス」


くしゃり。呆然と立ち尽くす俺の頭を撫でていった司さんは、豹牙先輩の腕を取るとにこやかに去って行く。


「帰るぞ」

「……あ……うん」


色違いのマフラーに口元を埋めながら、すぐ目の前に立っていた玲央に手を伸ばされた。思わず身を引いた俺に玲央が怪訝な表情を向けるが、行くぞ、と言って歩き出す背中をゆっくり追いかける。
プレゼント交換で当たった有名なフライパンセットを持ち直して、けれど歩みの遅い俺に気づいた玲央が何度も振り返る。


「おせぇ、それ貸せ」

「だ、大丈夫」


痺れを切らして手を伸ばす玲央から再び逃げる。チッ、と舌打ちをした玲央のほうを見ることができなくて、つい俯いた俺にため息が降ってきた。
カツ。冬ブーツの底を地面に打ち付けながら歩き出す玲央の背を、また追いかける。


「……」

「……」


さっきまで楽しかった気持ちが嘘みたいに沈んでいるのが分かる。
結婚って、結婚だろ? 永遠を誓い合って、夫婦になって、家族になる。そういうこと、だよな?
なんで、どうして? 玲央が結婚? 誰と?
ぐるぐる。ぐるぐる。どんどん深みに嵌っていくようなドロドロとした黒い気持ち。喜怒哀楽が根こそぎ奪われていくような、ずっしりと重い足取り。


「……あ、」


ふっ、と。下を見ながら歩いていた俺の視界に、立ち止まっていたらしい玲央の足元が映る。思わず顔をあげてしまえば、そこには不機嫌そうな玲央の顔があった。




 


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