「俺、前にちゃんと家族してるって言ったけど、あれは訂正します」
『訂正?』
「はい。俺、多分全然ダメで、きっと大人になってもそれは変わりません。でも……でもこれが、全然ダメなあやふやなものでも、これが俺と玲央の家族って関係なんです」
だから匡子さん、と呟いて目を細める。
「これからもどうか、ワガママな兄をよろしくお願いしますね」
『……』
あの日、自分の知る玲央の姿を教えてくれた匡子さんに、俺は玲央が一人じゃないと浮かれていた。だから気が付けなかった。彼女に、匡子さんに告げた「ちゃんと家族をしている」という台詞がどれほど危ういものかを。それを聞いた彼女が寂しそうにしていた理由を。だけど今ならそれが分かるから、其川さんと、先生と決別したあの日生まれたこの感謝の気持ちを伝えたい。
『……そう、分かったのね、小虎くん』
「はい、その節はお世話になりました」
『いーえ、気にすることないわ。私ね、ちょっとお節介だから』
「でもそれに俺も玲央も救われてますよ。もちろん、泉ちゃんもね」
『……やだわぁ、小虎くんったら随分成長しちゃって』
なんか寂しいわぁ。呟く匡子さんの声に微笑むと、黙っていた玲央がわざとらしく音を立てて俺の頬に唇を寄せた。
「そういうわけだからあとは邪魔すんな」
『ちょっとアンタねぇ……ほどほどにしなさいよー。あと怪我とかすんじゃないわよ? それから』
「分かったからもう黙ってろ」
『玲央、アンタくれぐれも』
ピッ。なんて音を立てて通話が切られる。悪びれた素振りも見せない獣はポイッとタブレット端末をテーブルに投げ捨てると、もう一度俺の頬に唇を寄せる。
「玲央、匡子さんに失礼だろ……」
「ゆっくり過ごしに来たのに邪魔したのはあっちだろ。それにさっき、嬉しかったしな」
「え?」
「なんでもねぇよ」
ガブリ。頬をかじる獣は甘い牙を俺に突き立てては、ひどく機嫌の良さそうな笑みを漏らすのであった。
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