二年前、本物のノアさんと巴さんのあいだになにがあったのか分からない。すぐ出られたはずの刑務所に留まり、ノエルさんにノアさんが死んだことを告げる手紙を送った理由は分からない。
真実を知りに、この街に訪れたノエルさんがあのトランクケースになにを詰め込んで帰ったのか分からない。
結局、司さんが描いたラストがどうであったか、そして新山さんと仙堂さんがなにを得たのか、俺にはなにも分からない。
「……仙堂さんは、正義の味方ですか?」
分からないけれど、なんとなくそれぞれの事情が垣間見える今なら、そのすべてを知ろうとも思わない。
俺の問いに目を丸くした仙堂さんは、くすりと微笑む。
「正義の味方と謳った、ただの一警察ですよ」
くしゃり。と、仙堂さんが俺の頭を撫でる。はじめて撫でられたはずなのに、なぜかひどく泣きそうになるのは何故だろう。
俺は下手くそな笑みを浮かべて、頷くことしかできなかった。
「はいセクハラの現行犯でたいほー!」
「……」
と、そこへ酔っ払った新山さんが現れ、仙堂さんの手首に本物の手錠を嵌めた。嵌めやがった。
うっすら浮かんでいた笑みを消した仙堂さんは、新山さんのネクタイの根元を持つと、そのまま彼の体ごと上へ持ち上げる。徐々に顔に青みが増す新山さんがヘルプ! ヘルプ! と叫ぶも、俺は助けることもできずに苦笑した。
と、そんなとき、
「だーれだ?」
「……司さん、ですね?」
俺の後ろから両手で目を塞いできた司さんが、酒臭い息を吐きながら笑った。
「あはは、小虎くん飲んでる? 未成年とかケチくせーこと言ってたらキスしちゃうぞー?」
「なに酔っ払ってるんですか。てかその頬、冷やしたほうがいいですよ?」
「んー? んふふー、いーの。これはねぇ、豹牙からの愛の証なんだからぁ」
あはは、うふふ。笑う司さんの頬には、愛の証と言うにはグロテスクなアザができている。
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