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「……え?」

「おい、玲央っ」


一体なにが起きているのだろうか。俺の視界には焦ったようにあとをついてくる隆二さんの姿と、呆然とこちらを見ている人々の姿。
腰辺りをがっちり押さえたなにかが、ひどく温かい。

あぁ、俺。兄に抱えられてるんだ。


「玲央、どこに連れていく気だ」

「あ? 返しに行くんだよ。ゴミ箱に」

「は? お前……やめろ、仁さんに殴り飛ばされるぞ」

「上等」


兄と隆二さんの会話が聞こえる。俺はどんな表情をしていいのか分からず隆二さんを見ると、彼は困ったように微笑んでくれた。
それを見てしまえば、なんだか急に嬉しくなって俺も微笑んでしまう。そう、嬉しい、嬉しいのだ。

兄がこんなに話しているのを、俺は初めて聞いているのだから。
家にいれば罵声しか飛ばしてこない兄が、友人だろう隆二さんと会話を交えている。

それはなんだか俺の知らない兄の姿を見ているようで、堪らなく嬉しい。


「……ははっ、おい小虎、お前抱えられてんのに笑ってんなよ。変なやつ」


そんな俺がおかしかったのか、隆二さんがあの無邪気な笑みでそう言った。
なにか間違ったことをしたような気分になって落ち込むと、急に視界が大きくブレた。


「あ? 笑ってねぇじゃん」

「……」


気が付いたときには兄の顔。今のセリフから考えるに、どうやら兄は俺の笑顔を見ようとしたらしい。なんで?


「玲央の顔が怖いんだろ」

「は? ぬかせ」


さきほどまで険悪なムードの中心であった二人が、今は嘘のように親しげに話している。
きっと、それは互いに心を許しているからなのだろう。
……俺と雄樹も、こんな感じなんだろうか。


「……あ」


雄樹、そうだ雄樹。
あいつ玲央のこと嫌いって言ってたじゃん。
そうだよダメだ。雄樹と兄を会せたら、きっとまずい。




 


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