しばらくして戻ってきた二人が、若干すっきりした顔をしてそれぞれ仁さんにお酒を注文する。
吐いてすぐお酒を飲むその根性はどこから来るのか。まぁいいのだけど。
「……っはー……で、えーとなんだっけ。俺が豹牙大好きってとこだっけ?」
「はい、そうですね」
いや、そこじゃねぇだろ。司さんの隣に座る巴さんが突っ込む。
「で、豹牙先輩のことを大好きな司さんがわざと遠ざけてるのを見て、なんとなぁく思ったんです。司さんは俺を守ってるんじゃない、俺に豹牙先輩を守らせてるんだって」
「……」
話をつづけた俺に、豹牙先輩が「はぁ?」と声を漏らした。
「あの動画を見せられて、司さんに会いに行ったとき、それは確信に変わりました。おまけに司さん、豹牙先輩のことばっか言ってたし。もう本当、馬鹿ですねぇ」
卵を敷いた鍋をゆるりとかき混ぜる。俺の声に誰も反応を示すことはないが、話を止めるつもりもない。
「俺、言ったでしょ。司さんの行動には意味があるんだろうって。でもね、司さん……俺もここにいる皆も、アンタの駒じゃない。個人の意思を抑えつけて、卑怯なやり口でなにかを成し遂げようなんて考えないでください」
「……」
「アンタには力も知恵もある。けどだからって、俺らの人生掻き回す権利はない」
「……」
「俺が言ってることは、反吐が出るような偽善ですか?」
「……いや、正しいよ」
卵を混ぜた鍋に蓋をして、司さんに向き直る。彼は目を逸らしたまま、唇を噛みしめた。
「俺ね、これでもすっげー怒ってるんです。なんでか分かります?」
「……俺が、君のこと……みんなを巻き込んだからでしょ」
「違うわボケ」
「え」
一言罵ると、司さんが目を丸くしてこちらを見る。してやったり。俺は思いっきりイイ笑みを浮かべてみせた。
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