なんだか頼りない視線でノアさんを見る豹牙先輩だが、俺の方を見てくしゃりと顔をしかめた。
「豹牙先輩」
俺は苦笑を浮かべながら彼の名前を呼ぶ。しばらく黙っていたままの豹牙先輩が、落とした買い物袋を拾ってこちらへ寄ってくる。
「仁さん、これ買い出しモン。多分……割れてはいねぇと思う」
「おー、ありがとよ」
カウンター内へやって来た豹牙先輩は、仁さんに買い出しの商品を渡すと俺の隣に立ち、手を洗う。そんな豹牙先輩を見ていたノアさんが、ぽかんと呆けた顔のまま口を開いた。
「……怒らないの?」
「なに、怒られてぇの?」
「……殴られるかと思ったんだけど」
「いくらでも殴ってやるよ。言い訳聞いたあとにな」
キュッ。蛇口を閉めてハンドタオルで手を拭いた豹牙先輩が、カウンター内にある注文書に目を向け、すぐさまカクテルを作りはじめるとノアさんが口を閉じた。
「お待たせしました」
俺はそんなノアさんの前にお粥と卵味噌を起き、微笑む。
ちょうど接客から戻ってきた雄樹と志狼にもそれぞれお粥を渡すと、二人はすぐさま運びに行った。
「……いただき、ます」
「はい、召し上がれ」
固く閉じていた口から漏れ出て声はひどく非力で、頼りない。
ノアさんの白い手が蓋を開けると、中からたっぷりの湯気が空中に舞った。
ふつふつと沸くお米の音を聞きながら、しばらくその様子を眺めていたノアさんは次に卵味噌の蓋を開ける。同じように湯気が舞っていくと、険のある彼の顔が少しだけ和らいだ。
一緒に置かれた小皿にレンゲでお粥をすくい、またじっくりとその様子を眺めていたかと思うと、彼はついに口へと運び、熱さに驚いて跳ね上がる。
「ふー、ふーって息を吹きかけて冷ませば、熱くないですよ」
「……ん」
見かねて声をかけると、彼は頷いてから息を吹きかけ、また一口。
ゆっくり時間をかけて噛んでいるノアさんに微笑んでから、俺は違うお粥を作り始める。
「……おい、しい……ね……っ」
「ありがとうございます」
涙声にはあえて触れず、お礼を言うと彼の鼻をすする音が聞こえた。
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