「小虎……」
「こんばんは、司さんはいますか?」
「あぁ……いるけどよ、」
俺の姿にきまりの悪い顔をした巴さんが口ごもる。そんな彼の横をするりと通り抜けた。後ろからなにか聞こえた気もするが、今は全力で無視します。
なぜか向こう側が暗いリビングの扉を開けてみると、そこにはいくつものモニターを注視する司さんがいた。その姿の異常さに思わず唾を飲み込むと、こちらを見てもいない司さんが口を開く。
「一人で行動しちゃダメって言ったの、忘れたのかな?」
淡々とした、まるでロボットのような声音だ。椅子に座って微動だにしない彼の足元には、インスタント食品のゴミが山となって転がっている。
「お隣さんにお裾分けって、実は昔から夢だったんです」
「……へぇ、まるでお嫁さんみたいな夢だね」
「はい。自分でもちょっと女々しいかなって思いますけど、お隣さんが美人だったら男でもアリだと思いません?」
「さぁ? 俺、最近女には興味ないからなぁ」
「じゃあ、豹牙先輩なら興味ありますか?」
「あるよ。だって俺、豹牙の事が大好きだもん」
「はい、知ってます」
知ってますよ、そんなことくらい。
一向にこちらを見ようともしない司さんの瞳は、いくつものモニターを見るため忙しない。
「だから俺、豹牙先輩にそう言ってきました」
「へぇ、ありがとう」
小虎。いつのまにか俺の後ろにいた巴さんが俺を呼ぶ。それでも俺は、司さんから目を離すことだけはしなかった。
「俺、言いましたよね。ちゃんと謝ってくださいって。謝りましたか?」
「…………謝って、ないよ」
だいぶ間を開けて呟く司さんの言葉に、思いっきりため息をつく。そのあとズカズカとゴミの山を乗り越えて、モニターを眺めていた司さんの前に立ちふさがった。
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