――とはいえ、そんな丸まっていたところで事態がどう転がるでもなし、俺は断られるのも覚悟で豹牙先輩を突き詰めることにした。正直、かわされるのは目に見えているのだけど。
でもこうして俺を守る時点で事態は深刻であるに違いない。でなければもっと目立たないよう俺を監視するはずだし、なにより当事者かもしれない豹牙先輩が俺を守ること自体、おかしいじゃないか。
そう強く決意し、朝から意気込んで豹牙先輩を待つ俺の元に現れた彼は、しかしそんな俺の出鼻をくじく。
「おはよう、小虎」
「お……おはよう、ござい、ます」
まるで後光でも射しているかのような眩しい笑みに思わず口の端がヒクヒクと引きつった。
憑き物でも落ちたような素晴らしい笑顔は違う意味でも充分に輝いていたが、昨日のあの表情は一体なんだったのか。
「どうした? 変な顔して」
「え? いや、あは、あはははは」
どうしたって聞きたいのはこっちですよ、豹牙先輩。なんて言葉をゴクリ、飲み込む。
そんな俺の頭をポンポンと優しくあやした先輩は、微笑を浮かべながら目線を合わせるように膝を折る。
「覚悟なら出来た。だから小虎が知りたいこと、ぜーんぶ教えてやるよ」
「え?」
ドキリと心の臓が音を立てる。
真っ直ぐに見つめる俺の瞳の奥を覗きこむように、豹牙先輩が笑った。
「小虎にだけ格好いいこと言わせてらんねーしな」
「……豹牙、先輩」
思わず笑ってしまう俺の頭を、今度はその両手でわしゃわしゃと撫でてくる豹牙先輩の表情は、初めて見る無邪気なそれだった。
そのまましばらく俺の頭を撫でていた豹牙先輩だったが、話は長くなるから学校とバイトが終わったあと、落ち着いて話そうということになった。
俺は昨日までとは違った気持ちで家を出ることができ、それだけで今日一日がとても幸せなものになると確信できた。
――できていた、はずだった。
「朝日向小虎さんですね? 申し訳ないのですが、事情聴取のため任意同行願います」
「……え?」
いつものように豹牙先輩のバイクに乗るためヘルメットをつける俺に話しかけてきたその人たちは、ドラマで見かけるような警察手帳を突き出しながら、確かにそう言ったのだった。
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