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ある日の江藤家 - 4



「おやー? サボりかな〜? 豹牙くーん?」


オーナールームの扉を開けると、こちらにも置かれた6面モニタの前でニヤつく司の姿があった。
朝とは違って覚醒しきった司の笑みは、俺を咎めようとするものではなく、ただからかっているだけだ。


「お疲れさん、今日はワイン空けような?」

「じゃあ豹牙くんが隠してた59年ものと、A5ランクの和牛ステーキにしような?」

「……はいはい」


せっかく隠してたあれ、見つかってたのか。つーか台所には立ち入り禁止って言ったんだけどなぁ?


「俺は別にいいけど、せっかく苦労して手に入れた59年ものなのに、こんな日に空けていいのか?」

「馬鹿だねぇ豹牙くん。酒は飲まれるためにあるんだよ? 記念日なんてけち臭いこと言ってたら、酒に失礼だろ?」


と、笑う司。
だが本当に苦労したんだぞ、あれ。……まぁ、いいか。


「じゃあ司先生、美味しい夕食のためにも、今日は早く仕事を上がってくださいね?」

「……うーん、先生って響き、結構いいねぇ」

「ばーか」


ケラケラと笑う司の額を小突いてから、オーナールームに作ったロッカーの前へ移動する。
扉を開けた瞬間、酔いそうなほど香水の香りが漂ってきた。


「……司」

「虫除けはさぁ、しっかりしとかないと、な?」


そう言って微笑む司の目は笑っていない。こいつ……昨日、酔っ払った客に抱き着かれたとこ見てたな。


「はいはい、ありがとよ」

「いーえ、どういたしましてぇ」


くすくすと笑う司の声を背に、隠す気もなく着替えをはじめると、いつのまにか後ろに来ていた司に腰を撫でられた。
あえてそれを無視して着替えをつづければ、うしろからは司の舌打ちが一つ。


「可愛くねー」

「そりゃどうも」


学生シャツとは違うYシャツのボタンを留めながら、振り向いて司の唇にキスを仕掛ける。
すぐに離れた俺を不満げに見ていた司だが、おもむろに上唇を舐めるものだから、ついもう一度してしまうところだった。


「それじゃあオーナー、今日もよろしくお願いします」

「ふふふ、いいねぇその呼び方。ねぇ豹牙、今日は久しぶりに下になれよ」

「……はいはい」


ふー、と息をつく俺の心情を知ってるくせに、今日も悪戯気に微笑む兄は楽しそうである。



―――――
遅くなりましたが、けむさんへ捧げます。
リクエスト内容は「豹牙、司で2人の1日」でした。
リクエスト、ありがとうございました!




 


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