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「ゆ、雄樹くーん……?」

「……あ゛?」

「……いえ、なんでもない、です」


廃屋から帰ってきた翌日、玲央は普段となんら変わらない態度で出かけた。
多分、俺の知らないところで志狼と喧嘩でもするのだろう。

だから俺は俺で、自分の目標とする姿を目指すため、今日からまたバイトに精を出そうと意気込んでいた。
……のだが、まぁ。体中ボロボロな俺に、買ってきたお土産をその場に落とすくらい驚いた雄樹と、咥えていた煙草を落とした仁さんが問い出さないわけもなく、一連のあらましを語ったあと、雄樹が発したのが


「はぁ? 馬鹿じゃねぇの?」


で、ある。


「ゆ、雄樹? あの、お土産あ、ありがとうな!」

「……あ゛?」

「う……じ、仁さんっ! ちょっと助けてくださいよ!」

「はは、俺には無理だな。まぁ頑張って機嫌取れよ」


そんな俺と雄樹を見ていた仁さんは楽しそうな笑みを浮かべ、なんてことない態度でカクテルを作っている。
雄樹も雄樹で得意のフリルエプロンを着こなして、さっさと接客へ向かってしまった。

取り残されたようにお粥を作る俺は、先ほどからため息を何十回と落としていることだろう。


「……なんで怒ってんですか、アイツ」

「分かんねぇの?」

「う、だって……別に仲間外れにしてたわけじゃないですよ? ただ、なんつーか、その、タイミングっていうか……」

「そうじゃねぇよ」


ぽん。置かれた仁さんの手に温もりを感じてしまえば、懐かしさと嬉しさがこみ上げる。
だけど、今はそれに安堵している場合ではない。


「半分はアイツの我儘だ。けどな、もう半分はお前のせいだぜ、トラ」

「……でも、」

「じゃあ聞けばいいだろ。分かんないから教えてくれってよ」

「……はい」


聞いたところで今の雄樹が素直に教えてくれる気もしないが、正直、ここまで怒る理由が分からないのだ。
確かに雄樹と仁さんが旅行中に起きたことだけど、これといってなにか迷惑をかけたわけでもなし、むしろ俺としては今まで以上に一緒に頑張っていきたいと、そう意気込んでいたのだ。
だから、それを初っ端から折られたようで、少し悲しいのだが。




 


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