背中を擦った玲央が俺の脇腹を持って立ち上がらせた。
その勢いが消える前に壁に手をつき、トイレまで這うように向かう。
便器を前に膝をついて、すぐにこみ上げてきたものを吐き出して、一緒になって零れる涙もそこに落とした。
途端に体の力が抜けていき、便器につかまるようにして意識を漂わせていると、玄関のほうから水音やなにかを拭く音が聞こえてきた。
本当に片付けているのか……そう思いながら落ちそうな意識がふわり、ふわりと飛んでいる。
しばらくして、片付け終えただろう玲央が開けっ放しのトイレを覗いてきた。
俺は半分気を失っていって、体が浮いたこともどこかへ運ばれていたことも曖昧だった。
「おい、脱がすぞ」
「……ん」
必死について行こうとする意識が空中を舞っている。
着ていたTシャツの裾を持たれたとき、その意識たちが慌てて戻ってきた。
すぐさま玲央の手を押さえ、苦笑を浮かべる。
「ごめ、俺やる、から」
「あ? 自分でやれんのか?」
「ん。大丈夫、吐いたら落ち着いた……それよりさ、風呂入ってるうちにご飯とか、作ってくれると嬉しいな……なんて」
「へいへい」
ぐしゃり。Tシャツの裾から手を離した玲央が、そのまま俺の頭を撫でる。
もっとそうしていたいと思う反面、正常さを取り戻してきた脳が悪臭を察知して、玲央を追い出してすぐさま浴室へと駆け込んだ。
はぁー……。深いため息を吐いて、頭からシャワーを浴びる。
嘔吐物の臭いだけではない自分の体を念入りに洗って上がる頃には、すっかり頭も冴えていた。
いまさらになって照れてしまう自分のニヤけ顔をなんとか抑えてリビングに行けば、テーブルの上にはオムライスが一つ。
ダイニングテーブルを囲うイスに座る玲央が、俺に気づいてこちらを向いた。
「髪乾かしてから食えよ」
「……おう」
やはり照れてしまう俺とは違って、玲央はなんでもお見通しだと笑った。
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