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「志狼! 止めろ!」


叫ばずにはいられない。俺の声が廃屋に響き渡るが、志狼の体は玲央のすぐ近くまで行ってしまった。
すかさず飛んだ拳を玲央が避ける。次の瞬間、玲央は志狼の腹に拳を入れた。
ふたたびあの惨劇が繰り返されるのか、そう思って暴れる体がロープに擦れて、手首が濡れていく。きっと血でも出ているのだろう。


「れ……っ」


玲央、止めてくれ。

そう叫ぶはずだった俺が見たのは、床に膝をつく志狼の前で、なにもせずに立つ玲央の姿だった。


「おい銀狼、仲直りは済んだか?」

「……あ?」

「俺の馬鹿な弟と仲直りは済んだんだろ? なら、てめぇはさっさと消えな。喧嘩ならまた違う日にでもしてやる」

「…………は?」


志狼のまぬけな声がする。だけど俺もだ。俺も同じように、もしかしたらそれ以上にまぬけな顔をしているかもしれない。
なぜって、玲央の発言からすればそれはまるで――。


「……アンタ、いつ、から?」

「てめぇが人の弟に水ぶっかけるとこからだな」

「……な、」


慌てて立ち上がる志狼の横を、なんてことない顔して玲央が通り過ぎる。
そんな玲央を止めようと志狼が手を伸ばすが、それが触れることはなかった。後ろにいた隆二さんが止めたからである。

それを視界で確認しながら、俺はただまっすぐにこちらへ歩み寄る、なぜかコンビニの袋を持った玲央から目が逸らせない。

広くはない廃屋の入り口から俺のいる鉄骨まで、わずかな距離を縮めた玲央が俺の前に立ちふさがる。
長いその足を地につけて、獣が不敵に微笑んだ。


「ずいぶんな恰好だな」

「……れお……」

「はっ、なっさけねぇ声出してんじゃねぇよ。ほら、食え」

「んぐっ!?」


そしてなにを思ったのか、急にしゃがんだ玲央は俺の口に焼きそばパンを突っ込んだ。なぜ。




 


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