「しっかしまぁ、トラちゃんもさー、司さんにキスされてなんで怒んないかなー、もー」
「いや、怒るどころじゃなかったんだって。あとになってうげぇ、って思ったけど」
「あははっ! 性悪ざまぁみろ!」
ケラケラ。雄樹が嬉しそうに笑う。つーか性悪って……まぁ、いい。
しょっぱなからぶっ飛ばして飲んでいたせいか、雄樹の目がトロンと揺れている。
頭を撫でてやれば、やつは俺の膝に頭を乗せてきた。恋人の前でお前というやつは。
「悪いな、トラ」
「え?」
「聞いたあとになに言っても説得力ねぇけど、トラの知らねぇとこで勝手にプライベート覗いて悪かった」
「……いえ、いいんです」
うとうとしていた雄樹が目を伏せる。俺は雄樹の頭をまた撫でた。
「そいつ、昨日泣いて泣いて大変だったんだぜ?」
「へ?」
「良かったーって、トラちゃんが玲央さんと和解できて良かったー……だとよ」
「……」
「俺が言うのもなんだけど、いいダチ持ったな、トラ」
「……はい。仁さんは最高の恋人持ちましたね」
「ははっ。あぁ、そうだな」
カラン。仁さんの持つグラスの中で、丸く削られた氷が音を立てる。
ついに雄樹が寝息を立てれば、思わず笑みを浮かべてしまった。
音楽もかかっていないカシストで、俺と仁さんが口を閉ざせば雄樹の寝息しか聞こえない。
たまにグラスの中で氷が揺れれば、経った時間を惜しいとも思う。
あぁ、俺、ここが好きだ。
「俺、すごい幸せです」
「ん? 急になんだよ」
「雄樹っていうダチがいて、仁さんっていう頼れる人がいて、隆二さんっていうお兄ちゃんみたいな人がいて、豹牙先輩と司さんっていうお節介焼きがいて…………玲央っていう、自己中で我儘で、どうしようもない最低な、だけど最高の兄貴が、いて」
「……」
玲央と和解する前の俺の居場所はここだった。
今もまだ、俺の居場所はここだ。でも、ここだけじゃなくなったんだ。
手を伸ばせば届く距離に、俺の居場所はできたんだ。
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