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兄貴が背を向ける。このまま部屋を出て行くのだろうか。
なぁ、待てよ。まだ、なにも話は終わっちゃいない。


「兄貴っ!」

「あ?」


ソファーから立ち上がって兄貴の腕を掴む。俺の力じゃ引き留めるなんてできないけど、兄貴が立ち止まってくれているから、アンタはここにいる。


「最後まで聞けよ、確かに復讐だよ。そうじゃなきゃ俺の気持ちもアンタの気持ちも晴れないだろ、けど、それじゃ嫌なんだよ」

「……はぁ?」

「俺は――アンタを一生憎むなんてみっともない真似、したくない!」


頭の中にあるゴチャゴチャした感情全てが煩わしい。
側にいて、世話をして、兄貴面して罪滅ぼし。我慢するな、言いたいことは言え、そうやって言うくせして突き放す。

もう、そんなのいらねぇ。


「俺は過去に捕らわれていたくない。どうせなら、背負って糧にして、アンタの隣を目指したいんだよ」


スカッとした。心の中も、頭の中も、きっと記憶の中で泣いている――俺も。
兄貴が目を見開いて俺を見ている。なぁ、ちゃんと俺を見ろ。アンタが思う以上にアンタの弟は我儘なんだよ。それを他の誰でもない、アンタが分かれ。


「どう足掻いてもそりゃ消えねぇよ、アンタがしてきたことはちゃんと償ってもらう。けど、それに浸ってすがってちゃあ、俺が可哀想だろうが。自分で傷えぐるだけだろうが」

「……」

「我慢するなっつったのはアンタだろ。だから我慢しねぇよ。俺はアンタと家族として過ごすこと、我慢しねぇ」

「……はっ」


口を歪ませて獣が鼻で笑った。兄貴の腕を掴む手に汗が浮かぶ。


「ばっかじゃねぇの」


冷たい双眸が、俺を見下ろした。けどここで逃げる訳には、いかない。
伸びてきた兄貴の手が、俺の胸倉を掴んで軽く持ち上げた。つま先立ちになってもまだ、俺は兄貴から目を離さない。


「いいか、よく聞け。俺はお前に許しを請うつもりはない、一生だ」

「うん」

「そして俺はお前の求める理想の兄貴像なんかになるつもりもねぇ」

「うん」

「お前が我慢しねぇっつうなら、俺も同じように我慢しねぇ。けど最後まで世話はしてやる。それが俺の償いだ」

「うん、分かってる」

「だから聞け。そしてちゃんと理解しろ。小虎――今まで……悪かった」

「……え?」


いつのまにか、見つめあう獣の目から拒絶は消えていた。俺の足は、確かに床へとついていた。




 


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