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「本当になにも分かってねぇな、てめぇは。いいか、俺がてめぇを殴ってきた理由なんてうぜぇから、たったそれだけだ。そこにいて、ヘラヘラと笑ってやがる。だから殴った。それだけだ」

「……」

「そんな相手を家族として、ましてやなにをしても受け入れるなんて、んな偽善振りかざしてんじゃねぇよ」

「……」

「いいか、俺はてめぇに謝るつもりなんてねぇんだよ。許しを請うつもりもない」

「……」

「そんな相手に兄貴面を求めるな。盲信的に背中を追うな」


兄貴。そう呼ぼうとした口が動かない。
絶対の拒絶の中に、ちらちらと光るなにかが見え隠れしている。
手を伸ばせば――届きそうなのに。なのに、アンタはそんな俺の手を受け入れてはくれないから。

受け入れてくれないから、無理に飛び込むしかねぇんだろうが。


「馬鹿じゃねぇの」

「あ?」

「あぁ求めたよ、俺はアンタに兄貴面しろって言ったさ。でもこうも言ったよな。いまさら説教垂れるなら、兄貴面かましてみろってよ。なぁアンタ、今俺になにしてた? 説教垂れてたんじゃねぇの?」


あぁ、面倒くさい。なんでこうも伝わらないんだ。なんでこうも――アンタは遠いんだ。


「単刀直入に言えば満足か? いいか、俺はアンタを許さない。過去をなかったことにするなんて、んな慈悲はかけてやらねぇ。アンタは俺を世話して罪滅ぼししなきゃなんねぇんだよ。たとえアンタが俺をどんなに嫌おうとな」

「……」


勘違いしてんたのはアンタのほうだ。アンタが思うほど、俺は良い子ちゃんじゃない。
謝って欲しい、許しはしない。家族として構って欲しい、加害者として罪滅ぼしをしろ。二律背反の矛盾したこの気持ちに名前をつけるのなら――復讐?


「俺はアンタに復讐してんだよ、玲央」

「……はっ」


はははっ。兄貴が、玲央が笑う。獣が笑う。獣が、笑う。
その鋭い瞳がじっとりと俺を見る。口元はまだ、笑みを刻んだままだ。


「それでいい」

「……」


――凛とした、ひどく穏やかな声だった。
なにもかもを受け入れて、その背に乗せたまま生きる……そんな覚悟を、一体どう表現できようか。いいや、できない。

なぁ兄貴、アンタは――。


「そうやって俺を憎んでろ、小虎」

「……兄貴?」


なんでそんな瞳で、気高く笑うんだ。




 


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