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『不良同士でも気に入らねぇから殴る、イラつくから殴る。真っ当な理由なんて掲げちゃいねぇ』

『殴りあって芽生える友情? んな漫画みてぇなもん、この世にあるわけがねぇだろが』

『喧嘩するやつは嫌い?』

『これからはそうして言いたいことは全部言え。我慢はもう、すんじゃねぇよ』

『俺とも友達になろ?』


ツンッと鼻の奥がうずいた。なにも握ってはいない空の手が酷く寒い。


『なら覚えとけ、今から知ってやれ。あれがお前の兄貴なんだよ』


だけど、確かにこの手にはなにもないし、ましてや殴るためにあるわけじゃない。
アンタらと俺は違う場所に立っている。今日それを見せつけられて、喧嘩を止めろなんて言うつもりはもう、ない。


――ガァアアン……ッ!


名前も知らない男が倒れた。廃工場の中心では兄貴、隆二さん、志狼だけが立っている。
三人は互いに目を合わせると、兄貴と志狼は無反応で、隆二さんは苦笑を浮かべた。

あぁ、分からない、分からないさ。
アンタらが喧嘩をする理由なんて、これっぽっちも分からない。

けどそんな顔をされちゃあ俺だって、


「知らない、ですけど……でも」


――なんにも言えねぇだろうが。


「でも、受け入れられるかと聞かれれば、受け入れます」


その足元にたくさんの不良たちを転がして、返り血で染まった三人から目を逸らさずに言った。

豹牙先輩がどんな顔をして俺を見ていたのかは知らない。分からなくても、いい。
フッと彼が微笑んだ気配がした。次の瞬間、彼はその手を合わせてやる気のない拍手をする。
一体誰に向けてなのかは、分からなかった。

拍手の音に兄貴たちがこちらを見る。
牙を隠した獣と目が合えば、もう戸惑いも消えていた。
俺はゆっくりと、血に濡れた兄貴のもとへ歩み寄る。


「……」

「……」


兄貴の前に立ちふさがれば、彼は無表情で俺を見ている。どうせ俺が言わんとしていることを予想しているんだろう。
小さく息を吸って、吐く。


「怪我、しなかったんだ?」

「……して欲しかったか?」

「別に。ただ怪我されて帰ってこられちゃ、手当てが面倒なんだよ」

「はっ、そりゃ悪かったな」

「ふんっ、どうせ悪いだなんて、思ってねーだろうが」


そう言って鼻を鳴らせば、兄貴は喉を鳴らして笑っていた。
他の三人は呆然と俺たちを見ていたが、すぐにそちらへ顔を向ける。


「隆二さんも志狼も、豹牙先輩も、お腹空いたでしょ、お粥奢りますよ」


ニコリと微笑んでやれば、兄貴以外の三人が微笑む。
三人から頭を撫でられ、少し身長が縮んだような気もする。

カシストに戻れば仁さんは俺や兄貴たちに怒りもせず、ただ睨みつつもお酒を出してくれた。
俺は四人にお粥を出してやり、雄樹も交えて平然と、ただ平静に会話を交えた。

下手なことを口にしないよう、細心の注意を払ってただ事もなげに、笑った。




 


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