つぼみ菜
お家に招かれてから、孤爪くんと仲良くなれたような気がしていた。大学で会ったら話すし、たまに家に行ってゲームを見せてもらったりする。もう友達って呼んでも差し支えないと思った。
「いらっしゃい」
「おじゃまします」
あのおっきなスクリーンで映画も見られると聞いたので今日は映画を見にやってきた。我ながら遠慮がなくなってきた気がするけれど孤爪くんのお家ってとても落ち着くのだ。
「やっぱり大画面だと迫力あるね」
「うん。面白かった」
「ほんと?これシリーズだからまたDVD持ってくるね」
映画を見終わったのはちょうどお夕飯時だった。時計を見た途端、急に空腹を自覚する。
「孤爪くんってご飯いつもどうしてるの?」
「宅配とか、コンビニ」
「お腹すいてる?」
「すいてるけどなんで?」
「あの、嫌じゃなかったらご飯作ってもいい?」
お腹すいちゃって…というと、あっさり「いいよ」と返ってきた。実は映画を見ながらつまむお菓子を買うためにスーパーに寄った際、ついでに夕飯の材料も買っていたのだ。台所に案内してもらうと意外と調味料や道具がそろっていて驚いた。なんでも友達が集まった時に色々作ってくれるらしい。
孤爪くんは編集作業をするというので、張り切って棚から包丁を取り出した。よし、頑張るぞ!
「孤爪くーん」
ご飯できたよ、と呼びに行くと、彼は編集作業を中断してこたつのある部屋までやって来た。
そろそろ片付けないのかなこたつ。
テーブルに並ぶおかずに孤爪くんが一瞬目を見開いた。
「苗字さんって料理できるんだね」
意外そうに言われたセリフに、料理できなさそうな人間にご飯作っていいって言ったのかと思わず苦笑いする。
「うん少しね」
「ネイルしてるし剥げるからって嫌がりそうだと思ってた」
「確かに剥げちゃうのは嫌だけど、昔から母親に『男は胃袋を掴むのよ』って料理教えられてたから、ある程度はできるんだ」
「へぇ、俺今から胃袋掴まれるんだ?」
「えっ」
今の言い方じゃ確かにそう聞こえたかもしれない。なんて弁解しようかと焦っていると「冗談だよ」と孤爪くんは笑った。からかわれたみたい。
「これ、なんて野菜?」
「つぼみ菜だよ。春野菜。ほろ苦くて美味しいんだけどスーパーであんまり置いてなくて」
珍しいからつい買っちゃった、とご飯茶碗を渡す。お米も炊かせてもらったんだけど、思ったよりも良い炊飯器が置いてあっておっかなびっくりで操作してしまった。炊き上がりのお米のつやつや感は、流石良い炊飯器って感じだった。いいなぁ良い炊飯器。
つぼみ菜のてんぷらに肉巻き、あとはわかめのお味噌汁。ちょっと栄養素的には足りないかもしれないけれど急ごしらえだったし目を瞑って欲しい。乾燥わかめが棚にあってちょっとビックリした。きっと料理の上手なお友達なんだろうな。てんぷらはフライパンで揚げ焼きみたいにしたからちょっと心配だったけどちゃんとサクサクしていてほっとする。
「あの、口に合わなかったら残して大丈夫だよ」
美味しいって思ってもらえるかちょっと不安で、恐る恐るそう告げる。
「美味しいよ」
胃袋掴まれそう。なんて孤爪くんがにやっと笑って言うものだから、またからかわれた。とむうっとしてしまう。
「本心なんだけど」
むくれる私の顔を覗き込みながら孤爪くんがふわっと笑う。それがあまりにも“素”っぽくて、私は急に、ぎゅうっと胸が締め付けられるような気持ちになってしまった。
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