生まれた日 自室に戻る前に眠ってしまった事を思い出したのは、タイムが目を覚ましてすぐだった。 居間のソファーに横になっていた彼は、まだ若干重たい身体を何とか起こす。 瞬きを何度か繰り返し、辺りを見る。 そうして立ち上がろうとした時、彼の目に天使が映った。 正確には、一瞬天使に見えたのだ。 キッチンにて食器を洗う少年ロボット、アイスの姿が。 「タイム様」 アイスはタイムが目を覚ましたことに気付くと水を止め、穏やかな表情でキッチンからタイムの元へと歩み寄った。 彼は立ち上がると、愛おしそうにアイスを見つめる。 まだ起きてたのか、そう言葉を出す前に、アイスが先に言葉を告げた。 「おめでとうございます、であります」 何の事なのか、タイムにはすぐに理解が出来なかった。 表情を曇らせ顔を傾げていると、アイスがあるものを取り出して差し出した。 「今日は、タイム様のお誕生日でありますよ」 取り出した物、マフラーをタイムの首に優しく巻きながら、アイスはまるで本当の天使のように笑って見せた。 見る見る赤く染まっていくタイムの顔。 時計を見ると、針は丁度0時を指していた。 日付が変わった時だった。 「もう春でありますが、まだ少し寒いと思ったので編んでみたのでありま…」 最後まで言い終える前に、タイムは彼を抱きしめていた。 強く、もう離さないと行動で伝えるかのように。 彼はそんなタイムに身を預けた――高鳴るコアを感じながら。 そうしたまま、お互いは一時何も言わずにいた。 頭上にある電灯が、二体を邪魔することなく静かな灯りを放つ。 まるで、二体を優しく包み込むかのように。 沈黙を破ったのは、タイムの背中にアイスの両手が回された時だった。 「タイム様…?」 「ん……」 「ありがとうございます…生まれて来てくださって…」 彼のコアが、最も高鳴った瞬間だった。 未完成であるがために、辛く思うことが多々あった。 しかし、そんな彼をアイスは好きだと受け入れてくれた。 そして、生まれてくれてありがとう、と。 幸せな想いでタイムの心は満ちていた。 腕の中にいる彼よりも小さな機体のアイスの唇に彼はそっとキスを落とす。 長く、息が出来なくなりそうになっては離れ、もう一度。 それを何度も繰り返した。 恥ずかしいはずだったが、キスは止まらなかった。 二体の顔はこれ以上無いくらいに赤く染まっていて。 何度もキスを繰り返すと、もう一度抱きしめ合った。 「…ア……トウ…アイス…」 「え…?今なんて、ひゃっ!?」 言ったのでありますか?そう言い終える前にお姫様抱っこをするタイム。 恥ずかしそうに彼を見るアイス。 寝るぞ、と言うタイムの言葉を聞いて、アイスはそのまま電灯を消す。 そうして二体は居間を後にした。 起きた時、もう一度彼におめでとうと伝えます。 そして、今度は自分から彼にキスをすると、アイスは心の中で決める。 そう思いながら、アイスはタイムを見て微笑むのだった。 部屋に着き二体を優しく包み込んだのは、今度は星空に浮かぶ月明かりだった。 甘く、幸せな時の始まりだった。 *** 本当はロクロク9周年の日にあげたかったのですが、間に合いませんでした…; ロクロクの発売日であると同時に、タイムとオイルの誕生日でもあるんだなぁと…。 そんなタイムにおめでとうって伝えるアイスなお話が描きたかったんです´`* 2015/03/05 [*前]【TOPへ】[次#] |