×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
芽生える感情

一般の方々が寒いと感じるある日のことでありました。
博士様のお手伝いをしようと研究室へと向かい、扉をノックしようとした時であります。

「……ね…い、ハカセ」

外にまで届いた、中からの声。
ノックをして研究室へと入ると、アイカメラに映ったのは子犬を抱いた紫の男性ロボット、タイム様。
そしてタイム様の前に居るのは、わたくしを含めた研究所の皆様のお父様の様な存在、ライト博士様でありました。
博士様はわたくしに気付きましたが、タイム様は気付いていないようで。
博士様に向かって声を出します。

「ハカセの知り合いにいないのか…?コイツ引き取ってくれるヤツ…」
「大丈夫、心配はいらんよタイム。みんなに聞いてみるからの」
「……うん」

口数の少ないタイム様がここまで話しているのを見たのは、初めての事でありました。
声をかけようにもかけられず、わたくしはそのまま会話を聞いていました。

「おおアイス、すまんのう」
「…!?」

博士様がそう声を出したと同時に、驚いた様子でわたくしへと向きを変えるタイム様。

「い、いえ、大丈夫であります」

わたくしがそう言い終えると同時に、タイム様は子犬を抱いたまま慌てて走って行ってしまいました。
その背中を見つめていると、博士様が声を出しました。

「捨てられていたらしい子犬じゃよ」
「捨てられていたのでありますか…?」
「近くにな。それでタイムが拾ってきたんじゃ」

引き取ってくれる者がいないか聞きに来た、博士様はそう続けました。
タイム様が生まれてから、まだあまり時は経過していません。
そのせいもあってなのでしょうか、タイム様は自室に籠る事が多く、食事の時間に皆様で集まってもあまり口を開かないのでありました。
博士様はまだ慣れていないから、とおっしゃいましたが、子犬の事を大事に抱えながら何とかしようとしている姿を見て、優しい方なのだとわたくしは思ったのでありました。

「博士様、あの…」
「行っておいで、アイス」
「は、はい!」

わたくしが言いたいことが何だったのか、博士様は悟ってくださったみたいで。
わたくしはそう返事をして頷くと、タイム様を追いかけるのでありました。

***

タイム様は庭に居ました。
椅子に座って子犬を抱いたまま、地面へと視線を落としています。
わたくしはそっと歩み寄ると、声を出しました。

「あの…」
「!?……だれ?」
「アイスであります」

睨みつけるようにわたくしを見るタイム様。
すぐ地面へと再び視線を落とすと、小さな声を出します。

「…来るな」
「お話しがしたいのであります」
「聞こえなかったのか?来るなって…」
「お優しいのでありますね、タイム様」
「は……?」

わたくしの声を聞くと、驚いた様子でこちらへと視線を変えるタイム様。
わたくしはその続きを声に出しました。

「子犬の事…とても心配していたのであります」
「……別に、ボクは心配なんか」
「子犬を拾って来て、博士様に相談して…わたくしはとても優しい方だと思ったのであります」
「…………」

顔を背けるタイム様。
そんなタイム様を穏やかな表情で見つめる子犬。
少しだけですが、会話が出来た事をわたくしは嬉しく思いました。
少し、タイム様の事を知る事が出来たような気がしたのでありました。

「子犬を引き取ってくれる方…見つかるといいでありますね」
「……フン」

顔を背けたままのタイム様の声を聞き終えると、わたくしは踵を返して研究室へと向かおうとしました。
その時であります。

「…アイスマン」

わたくしを呼んでくださった、タイム様の声。
驚きました。
初めての事だったのであります、タイム様が博士様以外の方に名前で呼ぶ事は。
わたくしが知らないだけなのかもしれませんが、少なくとも名前で呼ぶ所をわたくしは見た事がないのでありました。

「は…はい?」

驚いてしまって、声が裏返ってしまいます。
タイム様は、わたくしを見て言葉を口にします。

「…この事は、他のヤツに言うな」
「……はい」

見たことのない、タイム様の真剣な眼差し。
それに応えるように、わたくしは笑顔を見せてそう言い、頷きました。

「ありがとうございます、タイム様」
「……」

名前を呼んでくださった事にわたくしはお礼を言います。
再度顔を背けてしまうタイム様。
わたくしは微笑み、改めて踵を返し研究室へと向かいました。
博士様のお手伝いをするために。

***

数日後、博士様からお知らせがありました。
子犬を引き取ってくださる方が見つかったと。

「良かったでありますね、タイム様!」
「……フン」

タイム様はそれ以上何も言いませんでした。
でも、タイム様の表情がわたくしにはとても嬉しそうに見えたのでありました。

その時、わたくしの中で何かが芽生え始めた気がしました。
この先、わたくしにとってかけがえのないものとなる感情が。

***

タイムが誕生してまだあまり経っていない時、二人が両想いになる前のお話。
アイスが、タイムは本当は優しいロボットなんだと、徐々に好きになっていく…そのきっかけみたいなお話が書きたかったんです´`*
タイムはアイスやみんなの事を最初○○マンって呼んでたらいいなぁと…! 2015/1/26
[*前]【TOPへ】[次#]