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オマエがいたから


澄んだ青空が今日も広がっている。
心地のいい太陽の日差しがエネルギーとして体内に吸収されるのを、いつものように感じた。

ボクは今日も散歩だ。
研究所にいてもほとんどやる事がない。
博士の研究の手伝いが終わると、決まってボクは外に出る。

……ボクはまだ未完成。
人の役に立つ事のできない、未完成のロボット。

そう思うのは、博士に作られ、まだ実験段階だと聞かされてからずっとだった。

「タイム様ー!」

ボクは立ち止まった。
振り向くと、そこにはボクの方へと走ってくるロボットの姿。
そのロボットは、この温度では暑いのではないかと思わせるような服装だ。

「散歩でありますか?」

ボクは無言で頷く。
いつからか、こうして外に出ると、このロボット…アイスマンがボクの所へと来るようになった。
今日みたいな休日の日に限ってだ、普段はアイスにも仕事がある。
人の役に立てる仕事が。

「わたくしもご一緒させてくださいであります」
「……いいけど」
「ありがとうございます、であります!」

コイツだけはどうしてか拒む気になれず、ボクはその希望を受け入れる。
拒む気になれない、そう思う度、コイツは時間に関して気にかけて行動するヤツだからだと、ボクは思っていた。

現にこうしてボクの所へと来るのも、予定時刻通り。
“予定時刻通り”
アイスが来る事がボクの予定にあったわけじゃない。
出て来たその言葉を打ち消し、ボクはあれこれと考えるのを止めた。

アイスが様々な内容の話をするのを聞いている内に、いつの間にか町まで来ていた。
多くの車が走り、人が歩行している。

「タイム様はすごいであります」

ボクは足を止めた。
そのアイスの一言を聞き逃さなかったから。

「…すごい?」
「はい。博士様はまだ実験段階だとおっしゃっていましたが、人のお役に立てているであります」

聴覚機能が痛んだ気がした。
人の役に立っている、ボクはその言葉に違和感を感じた。

「…ボクは、人の役に立つような事は何も…」
「…!タイム様!」

そう言いかけた途端に、アイスが大きな声を出す。
アイスが指差す方向をボクは見た。

道路で転ぶ子供の姿、同時にその道路を走ってくる車――

「タイムスローであります!タイム様!」

そう言った時には、アイスは既に走り出していた。
タイムスローを使うには時間を必要とする。
…どうみても、間に合わない。

「…ムリだ! 間に合わない!」
「タイム様なら大丈夫であります! お願いしますであります!」

このままだと子供の命も危ないが、アイスもただでは済まないかもしれない。
ボクは走り出し、タイムスローの準備を開始した。

迫り来る車、響き渡る子供の泣き声、必死で走るアイス。

間に合わない……後少し、時間があれば。
ボクが、未完成じゃなかったら。
周りの時が止まっているかのような感覚を感じた。

「タイムスロー!」

気付いた時、それは使えていた。
周りの時間が遅くなり、ボクとアイスだけが普段通りに動けている。
間に合わなかったはずだ、でもアイスは子供を抱えて道路から出ている。

時が戻った。
ボクは立ち止まる。
目の前には、子供を抱えるアイスの姿があった。

「大丈夫でありますか?」
「うん…ありがとう…!」
「道路を渡るときは、右と左をよく見るであります。危ないでありますよ?」
「ごめんなさい…」

泣きながらアイスにそう言う子供。
アイスは子供を下ろすと、撫でて笑顔を見せた。
その子供の親だろうか、血相を変えて子供の名前と思われる言葉を発してこっちに走ってくる。

ありがとうございました、そうお礼を言って何度も頭を下げる。
いえいえ、そう言いながらアイスが顔と手を振るのをボクは無言で見ていた。
子供は迷子だったらしく、親を探して走り回っていた所で向こう側の歩道にいた親を見つけ、走り出した、との事。

「アイスマン、ありがとっ! こっちのロボットさんはなんておなまえ?」
「タイムさま…タイムマンであります!」

子供がアイスに頭を下げてそう言ったあと、今度はボクの方へと向かって来て頭を下げる。

「タイムマン、かっこよかったよ!ありがとっ」

ボクにまでお礼を言うとは思わず、落ち着かない気分になる。
親も同じように頭を下げお礼を言うと、子供と歩いて言った。

「やっぱりタイム様はすごいであります。人のお役に立てているであります」
「…………」
「タイム様がいなければ、わたくしだけでは助けられなかったであります。ありがとうございます、であります!」

ボクに向かって笑顔でそう言ったアイスから、ボクは目を逸らす。

「…フン」

オマエがいたから

(ボクだけだったらあの子供は…)
(何かおっしゃったでありますか?)
(…なんでもない)
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