「…臨也の彼女?臨也が好きだから?だから付き合えてんのか?ナイフ首元にあてて付き合わねぇと死ぬって言ったら付き合えんのか?大体、そんなこと本当に出来るわけねぇだろ。臨也も臨也だ、それだけで何が“面白い”だ。全ッ然面白くねぇだろ、今まで観察してきた人間と同じだろ、何が少し違うだ一緒だっつの。それなら俺なんてナイフ刺ンねぇしナイフ手で折れるしナイフじゃ多分死なねぇし。なのに今までの態度一変させるなんざノミ蟲の分際で生意気すぎる。マジふざけんなアイツ本当に一回死ね。いや十回ぐらい死ね。そんで別れちまえばいいのに。あーくそっ、何すればあのクソノミ蟲野郎はあの女と別れる?俺はどうすりゃいいんだ!?……って、聞いてんのか新羅!門田!」



一息に俺の抱える不満と焦燥を全て口に出して言ってやると、ぽかんとこちらを見ているだけの新羅と門田が目に入り、思わず叫んだ。それに我に返ったのか、ハッと目を瞬かせたかと思えば今度は難しい顔に変わる二人に俺は首を傾げる。



「…静雄、それは……十宮の臨也に対しての恋情が薄れて別れればいいと思って言ってるのか?それとも、臨也の十宮に対しての興味が失せて別れればいいと思って言ってるの、どっちだ?」

「あァ?……ンなもん、後者に決まってんだろ。別に十宮が臨也に対してどんな感情抱こうが俺には関係ねぇし」

「君は今、自分がどれだけ吃驚仰天なこと言ってるか分かってるのかい?これは最早、青天霹靂といってもいい。いくら君達の言行を見慣れている僕達でさえ茫然自失してしまうよ。だって、それはまるで、」



――――臨也のことを“好き”だと言ってるように聞こえる。

新羅の言葉が続くとしたら、多分こうだったのだろう。けれど新羅はその言葉を紡ぐことはしなかった。何故って?俺が新羅の口を手で塞いだからだ。
それ以上言われたら、本格的にどうしていいのか分からなくなる。俺だって自分が信じられないんだ。まさか、あんな最低最悪な害虫のようなクソ忌々しいノミ蟲野郎なんかにいつの間にか好意を寄せる羽目になるだなんて、冗談にも程がある。


しかしこれは冗談でも嘘でも夢でも何でもない、これは紛れもない事実であり真実であり、現実だった。俺自身が認めてしまったのだ、もう逃れようがない。



「……俺だって、信じらんねぇんだ…。だって、臨也だぞ?人の悪を集めたみたいなどうしようもない奴だ。大嫌いだったはずなのに……アイツが、俺以外の奴に興味示すのが嫌だとか思っちまったんだよ。…しょーがねぇだろ…」

「…静雄……」

「だから、頼むから協力してくれねぇか?な、門田…新羅?」

「……分かった。俺も十宮には悪いが、臨也はお前と一緒に追い駆けっこしている方が楽しそうに見えたからな。だから静雄、協力してやるから…」

「あ?」

「岸谷を掴んでる手を離してやってくれ。岸谷の顔色がやばい、色々と」

「……だってこいつ、まだ協力するっつってねぇ」

「まず喋れる状況じゃないってことを察しろ!お前が口塞いでるんだろう!?大丈夫だ、岸谷も絶対に了承してくれるから!寧ろ、了承しか選択肢ねぇから!」



門田があまりにも必死だから渋々新羅から手を離してやった。新羅は数回咳き込み、息も絶え絶えになりながら「セルティたすけて」と狼狽する。もう一回ぐらいシメてやろうかと拳を鳴らせば慌てたように顔を上げ、門田の言ったとおり快く了承します、と言った。最初からさっさと言えばいいのに、と思う。



「で?どうすりゃ臨也、別れるんだ?」

「……僕が思うに、まどろっこしい駆け引きは君には似合わない。猪突猛進に直球勝負をしかけるしかないよ、静雄君」

「…どうすりゃいい?」

「告白しろ、臨也に。それこそ十宮がした以上の、臨也の関心を引きそうな衝撃的なヤツ」



真剣な面立ちでそう言う門田に、俺は頭を抱える。自覚した途端に告白しろという率直な助言を受けたことも悩ましいが、最も考えるべきは“臨也の関心を引く告白”だ。
俺は今まで生きてきた数十年間の間に、告白なんてことしたことがない。というかまず、人に対して好意を持ったのだって数回しかないのだ。更に言えば、臨也は男で、俺も男。勿論、同性を好きになったことなんて今回が初めてだ。尚更、何て言って告白すればいいのか分からない。

そもそもアイツ、男に告白されても大丈夫なのか?つか、初めての告白なのにどうしてこう難易度が高ぇんだよ。相手が臨也っつーだけでも色々大変なのに、同性って……どんだけもの好きなんだよ、俺。



「おーい、静雄くーん?だから君の場合、深く考えたら駄目だって。ほんと直球に当たって砕けておいでって」

「てめ……人事だと思ってよぉ…、そう言っても普通は考えるだろ、色々と」

「けど、お前と臨也は少なくとも“普通”じゃないだろ?」

「そうそう。出鱈目な力を持つ沸点の低い君と、出鱈目な頭をしてる反吐みたいな臨也。そんな君等に“普通”なんて似合わないと思うけど?」

「なぁ、静雄……お前は何を躊躇ってんだ?相手はあの臨也だぞ。お前のその力を見ても、何回殴られても、それでもアイツはお前から離れなかったんだ。今更アイツが、そんだけのことでお前を避けると思うか?」

「――――それに、よく考えてみなよ静雄君」









「昨日までは“大嫌い”だと言っていたはずの天敵が、今日になって“大好き”だって告白するの――――僕は十分、驚天動地な大事件だと思うけど……君はどう思う?」



新羅は、とても楽しそうに笑って俺を諭した。






 
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