池袋は今日も殺伐とし、喧騒としていた。



「いぃぃぃざぁぁぁやぁぁぁ!ちょろちょろ逃げ回ンじゃねぇ!!」

「あはは!なぁに言ってんの、シズちゃん。逃げないと君に殴られるじゃないか!」

「ったり前だノミ蟲!ぶっ殺す絶対ぇ殺す死んでも殺す死ななくても殺す、殺す殺す殺す殺す!」

「殺す殺すって、相変わらずそればっかりだね。もう少し語彙力でも身につけたら?まぁ君の可哀想な頭じゃそれが限界だろうけどねっ!」

「臨也ァ!!」



平和島静雄がキレる。
自動販売機が、コンビニのゴミ箱が、標識が、車が、ガードレールが。その他諸々、街で見かけるありとあらゆる物は彼の手に掛かれば一瞬にして武器と化す。怒りのまま目につく物を手にとり、静雄はそれらを投げ飛ばし、振り回す。その相手は更に逃げる。

折原臨也は逃げる。
真っ赤なポストが、公園の滑り台が、カーブミラーが、バイクが、看板が。その他諸々、街にある何てことない物が彼に目掛けて容赦なく降りかかる。怒りのままに暴れる相手を煽り、臨也はそれらをかわし、笑う。その相手はキレる。


普通の街では有り得ない光景が、この池袋という街では普通であった。日常であった。平生であった。
平和島静雄は折原臨也が嫌い、大嫌い。そして逆も然り。折原臨也は平和島静雄が嫌い、大嫌い。だから彼等は喧嘩という手段を取るのだ。相手が嫌いだから、静雄は臨也にキレるし、臨也は静雄から逃げる。



「何度、言やァ、分かるん、だっ、手前は!池袋に、来るンじゃ…ねぇぇぇ!!」

「うっわ……標識とカーブミラーの二刀流って、まじかよ。本当に最悪コンボなんだけど」

「嫌なら池袋に来るなッ!寧ろ、死んでろクソノミ蟲!」

「シズちゃんの方が死ねばいいよ」



―――この二人が起こす戦争は、池袋という大都市では何てことない平常として受け入れられる。

憤怒、嘲笑、破壊、逃亡、殺意、殺気、嫌悪、憎悪、暴言、罵言、喧嘩、戦争。
平和島静雄は折原臨也が嫌いなのだ。
折原臨也は平和島静雄が嫌いなのだ。


これは互いの相手に対する負の感情が重なった結果であり、当然の結果である。
嫌いなのだから仲良くする必要性もない、相手を気遣う必要性もない。嫌いなのだから殴る、嫌いなのだから切りつける。嫌い、嫌い嫌い嫌い。
彼等の胸中を埋め尽くす感情は“嫌い”という言葉だけ。彼等の関係を成立させる為には“嫌い”という感情が前提であり、だからこそ彼等は今日も池袋と言う街で戦争を繰り広げる。


そう。

“池袋と言う街では”






 
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