はっぴ〜☆年越しそば!
今日は12月31日。
一年の終幕の日であり、年越しの準備で忙しい。
「今年ももうすぐ終わりだな」
「そうでありんすねー」
ライト声優事務所所属声優、咲坂こばととそのマネージャー、いっしーこと石田はしみじみと今年を振り返っていた。
仕事納めの打ち上げも済み、後は新年を迎えるのみ。
「……って、違うーー!!今日はこばとの誕生日なりよ!大晦日ってイベントに気を取られてる場合じゃないなり!」
「あぁ、お前今日誕生日?」
今年で何歳だっけ? そう、ほけほけと言う石田。
それを見た咲坂は怒りをあらわにする。
「いっしーひどーい!毎年それじゃん!」
「お前の誕生日覚えてる奴なんて相当の物好きだよ」
「そんなことないもん!こばと、人気者だから皆のハートを鷲掴みんぐ!なりよ!」
「もういっしーなんて知らないっ!こばとはお祝いしてくれる人の所に行って来るもん!」
それ関係ねぇよ、とツッコむ石田を置いて咲坂は何処かへと走っていった。
(と、言ってもこばとはいつも通りやることはちゃんとやる子なり。良い子の皆に夢を届けるこばとがサボったりするわけ無いで候☆)
自主的にモノローグを多用している咲坂が向かったのは櫻小路の家。
以前、咲坂が作った料理が彼の愛犬ロミオの好みにストライク。
それ以来毎朝、ロミオの朝食を作りに櫻小路宅を訪ねるが最近の咲坂の日課となっている。
いつだか押しかけた時は家主と犬に逃げられたそうだがそれ以降もめげずに作り続けては家主・櫻小路に嫌がられている。
ちなみに、犬の方は喜んで食べています。
「さぁ、ロミオー。朝ごはんでござるよー」
「だからその不健康そうなのをロミオに食べさせないで!ロミオが超かわいそう!」
必死でロミオを料理から遠ざけようとする櫻小路であったがロミオはそんな飼い主には目もくれずにガツガツと朝食タイム。
(櫻小路きゅんはそういうでありんすがロミオはおいしそうに食べてくれたなり。ロミオはいい子なりねー。)
櫻子路宅での日課が終了し向かった先はいつもは寄らない場所。
でも、きっと誰かいると信じて扉を開ける。
「頼もうー!御用改めでありんすー!」
「なんだその古い言葉は。今人気の幕末ブームにあやかってか?役者が流行に流されているようではまだまだだな」
黒スーツに眼鏡の男――つまり樋口は、はぁ……、と長ーいため息をついた。
「むむっ!マネージャー殿!」
「他所の役者がうちに何の用だ?」
「まぁまぁ、龍。そんなに邪険にしなくても……」
「今日はマジカルエンジェルこばとのBirthday☆なりよ」
「うるさい奴はさっさと帰れ」
一刀両断する甲斐。
「うちの役者にたかろうという魂胆だろうが無駄無駄。諦めるんだな」
馬鹿にした態度の樋口。
(で、でもきっと人見きゅんやなぐもんならこばとのことを祝ってくれ……!)
そう思って後ろの二人を覗き込むと。
「あ、今日誕生日だったんだな。でもごめんな、咲坂さん……俺ら今金無くて……」
「先週、樋口さんの誕生祝いやったからっすね。櫻小路さんの家で……」
「あ、仮にあったとしてもお前にあげるものなんて何もないからね」
樋口が言ったのは祝う気持ちの方ではなく金銭的な面でのこと。毎日を必死で生きている彼らにはお金がなかった。樋口が余計なマージンを取っているためだが。
「こばとを…祝ってくれる人はいないなりか……」
ナデプロの事務所を出てとぼとぼと帰路を辿る。
「その様子じゃ、誰も祝ってくれなかったようだな」
「……みんな、覚えてもいなかったなり……こばと寂しくて泣いちゃうでありんすよ……?」
意気消沈。な咲坂を見て石田はついてこい、とだけ行って歩き出す。
戸惑う咲坂が後ろから声をかけても見向きもしない。
と、たどり着いたのは一軒の古びた建物。
「おそば屋さん?」
「お前はこれでも食ってろ」
続けて、誕生日おめでとう。とぼそりと呟く。
パァーッ、と咲坂の面が明るくなる。
「……いっしー!」
言葉とともに石田に突進。勢い良く抱きついた、ともいう。
「離れろ!鬱陶しい!」
「嫌でありんすー!いっしーはやっぱりやさしいなり!」
「こばと、来年もがんばるなりよー!」
2010 Dec.31
Kobato Sakisaka
Happy Birthday!!
(2010.12.31)
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