キミの噂
ここは僕が所属してる事務所、ナデシコプロダクション。通称ナデプロ。
事務所に通うことが所属してからの毎朝の恒例行事。
「あ、デミちゃんおはよー☆」
近くにいた八十科さんの観葉植物に声をかける。
問いかけに対してちゃんとシャーと答えてくれた。
植物は話しかけると育つって言うし、この子もちゃんと育ってるのかな。
あ、でもこれ以上育ったらなぐもん辺りが食べられちゃうか。
そんな他愛ない事を考えながら2人がいるであろう部屋へと足を運ぶ。
「おはようございますー☆」
軽快な朝の挨拶とともにドアノブに手をかけ、扉を開く。
しかし、扉の向こうは重々しい空気に包まれていた。
え、なに。このものすごくタイミング悪い、みたいな雰囲気。
なぐもんと人見さんは部屋の隅っこで台本片手に何やらこそこそと話し合ってる。
部屋の中には2人しかいないのにわざわざそんな事しなくても。
人見さんにいたってはずっと握ってでもいたのか台本がくしゃくしゃ。
それ、今日の現場の台本じゃないのかな…。
いつもなら騒がしいのに静かだから気になって問いを投げる。
「2人とも、朝っぱらからなに深刻そうな顔してるのさ?」
「由直、聞いてくれ、大変なんだ!」
すると、すぐさまなぐもんが言葉を返してきた。
僕はそれに対して、何が?と首を傾げる。
「いいか甲斐、落ち着いて聞け!さっき八十科さんから聞いた話だけど、実はっ……」
落ち着くべきなのは人見さんの方だと思うな。若干声が上ずってる。
「あっ、あの……ひ、樋口が新人をスカウトしたらしいんだ!」
どもりながらも言い切った。
「ふーん、そうなんだ」
たいしたことじゃないじゃん、と心の中で舌打ちして。
軽く流したら気に障ったようで。
「あの樋口がだぞ!?」
「お前は変だとは思わないのかよ!?」
間髪入れずに双方から言葉が飛んできた。
ちゃんと仕事くれるし、僕はそれでいいと思うんだけどな。
「うん、でも僕には関係ないし」
「お前そういう所冷たいよな……」
なぐもんにちょっとだけ寂しそうな目で見られた。
「ひどいなー、そんなことないよー。それに樋口さんだってたまにはいい事すると思うよ?」
一応フォローも入れておく。
「あの悪魔がそんな善行するわけないっ!」
あ、また始まった。
人見さんの樋口さんがいかに傍若無人で極悪非道かについての力説が。
昔に色々あったみたいで、ことあるごとにこれでもかって言うくらい語る。
本人を目の前にすると生まれたての小鹿みたいに怯えちゃうくせに。
見てるこっちとしては面白いんだけどね。
「お前は何もされてないから分からないんだ!あいつの……樋口の残忍さがっ!」
「俺がどうかしたか?」
噂をすればなんとやら。人見さんの背後にはいつの間にか樋口さんが。
「ひっ……ひひひひひ樋口っ!!」
あーあ、人見さん震え上がっちゃって…。
あれ、樋口レーダー故障中?
「貴様ら、今日の仕事はどうした?無駄口を叩いている暇があったらさっさと行くがいい!」
話の内容にさほど興味はないらしく、叱責の言葉だけが投げかけられた。
それとも樋口さんの事だから全部聞いてたのかな。
ま、どっちでもいいや。
そんなわけで。
樋口さんの登場により、その場はお開きになった。
でも。
どんな人が樋口さんの目に止まったんだろう。
"あの樋口さんがスカウトしてきた"ってところに少し、ほんの少しだけ興味を持った。
現場に行く道すがら、僕はそう思ったのだった。
ゲーム化おめでとう記念。
話題に登った新人=ヒロイン。しかしこの話だと性別すらよく分からんな。もはや夢なのか、謎。
あ、ちなみに八十科="やそしな"と読みます。
そして語尾に☆がつくのは公式でナチュラルにそういう子だからです。ご了承下さい。
(2009.2.28)
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