眼鏡とフラグと教室と






ねぇねぇ、と篝に問いかける草野。


「かがりちゃん、どうしてびしょびしょなの?」

「月海がいきなり水かけてきてね、散々だよ」


言葉ではそういうがさして気にしてもない様子だ。
だが草野は言葉をそのまま受け取ったようで、


「つーちゃんひどいも…」

むーっと頬を膨らませて月海を睨む。


「篝、あれは汝が悪いのじゃ!吾のせいにするでない!」

それに対して篝はただ笑うのみ。


「して草野、汝は吾に何の用じゃ?」


さっきもした質問を繰り返す。

それに今度はすぐに答える。

「あのね、ふーちゃんが、おもしろいもの見つけたからおいでって言ってるって。みんなから聞いたの」


手をめいっぱいに広げ周りの桜の木達を示す。
草野の声に反応したかのように花びらがそよそよと揺れる。


「面白いもの?」


月海は草野についてその”おもしろいもの”の元へと向かった――。




そして、月海らと別れた篝が訪れたのは校舎の奥にあるコンピュータ室。
そこは現在は授業には使われておらず部活動にのみ使用されている部屋。
教室のすべてのカーテンすべてが締め切られている。
明かりはパソコンのディスプレイが発する光のみ。


それらの影響か怪しげな雰囲気をかもしだしている。



「松ー……いる?」


暗がりに向かって呼びかける。



「あ、篝たんいらっしゃいです。松に何か用ですか?」


声が部屋の奥から聞こえてきた。



「全く君は……自分の部屋じゃないんだから」


あきれた目で篝が見る先には、明るい色彩の髪を三つ編みでまとめている眼鏡の女生徒。
その生徒、松はそちらを見ようとせずなにやらガソゴソしている。
手にはコードやケーブルがたくさん。
接続されているものを抜いては他のものと挿したりテキパキと手を動かしている。



「また改造?それ学校の備品だよね」

「クフフ……これでまた校内の情報が手に入りやすくなるですよ」



手を動かしながら話す松はここの部活――恐らくコンピュータ部になるのだろうか――の部長。
ただ篝はこの部屋で他の部員を見たことがない。



「美哉に伝えとくね。また松が無駄遣いしてるって」


このままでは埒があかないと思っての一言。
あの生徒会長はそういう所に厳しいから。


「ひぇぇぇ!?それだけは勘弁ですよ!松の命が危ないです……!」


「さすがにそこまでは行かないだろ……」

悪くて経費削減とか。ぼそりと呟くが脅し文句に慌てている松の耳には届かなかったようだ。



「そういえば……」


落ち着いたようで、言葉を発しながら篝に向き直る。


「ちょっと気になることがあったのですよ」


真剣そうな松を見て、篝は手近な椅子に腰掛ける。



「今日入寮者がいるらしいです」


「一年生だよね?それがどうかしたの」

新入生が入ってきたら寮に入る者がいるのは当然、という考えからでた言葉。
この季節恒例の特に珍しくもない事柄をわざわざ出す松に訝しげな視線を送る。


「篝たんのお部屋は二人部屋を一人で使ってるですね?」


「そうだけど。それと何の関係が……」


「入寮者の内の一人のお部屋の番号がですね、篝たんのお部屋と同じなのですよ」


「……僕の、部屋?」


「詳しいことは調査中なのですよ。お部屋に戻ってお片づけした方がいいです」


「別に、見られて困るものはないけど」

ただ、面倒だな、と呟く。


「篝たんが見られて困るのは身体です?」


にやにやと楽しそうに言う松に対して篝は露骨に嫌そうな顔をする。



「まぁ、まさか誰も篝たんが女の子だとは思いませんですよ」

と、現在篝は男子の制服を着ているが、性別は女。つまり男装中。
だが中性的な容姿をしていること、それに加え、性格も女子らしい……とはとても言えないので、現時点ではほとんど周りに気づかれたこともない。

松は続ける。

「それに篝たん、胸ないですし相手が鈍ければたぶんバレないですよ」

ここ2年平和なもんでしたし、と。

他の女子のそれよりも控えめな為、厚着をすればわからないくらい。


「悪かったね」

むっとしつつも反論はしない篝。


「僕もまさか入学早々部屋空いてないからって男子寮に入れられるなんて思わなかったよ」

表面上は笑い合ってはいるが篝の目は笑っていない。
放っておいたら御中――理事長への恨みつらみを発しそうな様子だ。


「とにかく、気をつけるです。恐らく御中理事長の嫌がらせだと思うですが……」

「あぁ、後で文句つけに行ってやる」




――眼鏡とフラグと教室と


(そうそう、服が濡れたらちゃんと乾かすです、透け透けですよー)

(なっ……!)












(2010.08.20)

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