はじまりは、そんな偶然の出会いから






淡い色の桜の花びらが舞い散る。

時は卯月―――入学式のシーズンである。
この学園でも今日、入学式が行われる。
その舞台である体育館の周りには人が溢れ、がやがやと賑わう。


そんな喧騒から少し離れた静かなこの場所。
満開に咲き誇る桜の木の下。

色素の薄い髪を風に揺らされながら規則正しい吐息を立てる者が一人。

この人物がここに来たのは半刻ほど前。
静かな所で本でも読もうかと居場所を探しているうちに満開の桜を見つけた。
腰を下ろしたまでは良かったが、暖かな陽気に負けたのか、うたた寝してしまったようだ。



『……さん、……丈夫です、誰もいませんよ!』

幾時か経って、どこからか元気そうな女の子の声が聞こえた。

そんな気がしてその人物ー篝は重い瞼をうっすらと開く。

しかし、周りには誰もいない。

寝起きで上手く働かない頭を動かそうと、そう思ったつかの間。


「え……?」

上から少年と少女が降ってきた。



少女の方は軽やかに地面に着地した。
しかし少年の方はその場に寝ていた篝の上へと落ちる。


「つッ……」
予期せぬ衝撃に小さく呻き声をもらす。

「いたたた……」


「……あっ」
落ちてきた相手と目が合う。
少年は篝をまるまる何秒か見たあと、ハッと我に返り勢い良く立ち上がる。

「すすすすいませんっ!大丈夫ですか?!」

何度も何度も頭を下げる少年。
どうやら、制服の真新しさやぎこちない感じからして新入生のようだ。


「僕は大丈夫。君こそ怪我は無い?」

「は、はい……本当に大丈夫ですか?」
重かったですよね、痛かったですよね、と心底申し訳無さそうに謝る新入生。


「うん、大丈夫だから」

「よかった……」

安堵したのか、ホッと息をつく。その微笑んだ顔を見て今度は篝の動きが止まる。


「あの……何か?」

急に沈黙した篝を不審に思い尋ねる。


「……いや何でもないよ。君たち、新入生だよね。早くしないと遅刻するんじゃない?」

体育館はあっち、と指差す。
今日の行事は入学式。その開催場所。

「あ!そうだった!」

すいませんでした、とぺこりと一礼して走って行く。

その背中を見送った後。



「さて、まだ時間あるかな」

当初の目的だった本を手にして寝転がる。



はじまりは、そんな偶然の出会いから







はじまり。
(2008.11.17)

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