四
肩を寄せ合ったまま、これからどうする、という話になり、町中へ行き芝居でも観るか、郊外まで出て散策するかという二択になった。
ナマエと共に過ごせれば何でも構わないと考えて、山崎は彼女に最終的な選択を委ねた。
彼女に希望があるならば、是非それを叶えたかったのだ。
ナマエは暫く思いを巡らせてから、遠慮がちに山崎を見た。
『…此処からかなり離れた所に、菜の花が一面に咲き乱れる場所があります。
ご足労願う事になるのですが、可能であれば、烝さんと一緒に…』
語尾は消え入り、はっきりとは聞き取れなかったが、顔から火が出そうな程に恥ずかしがるナマエの様子と言葉の流れから、言わんとしている事は伝わった。
その菜の花畑を共に見たいと言うのだろう。
『ああ、解った。…では早速その場所に向かおう』
山崎が快諾するとどうやらそれが嬉しかったらしく、ぱっと輝くような笑みをこちらへ向けると、ナマエは嬉しそうに礼を述べた。
どうした事か、今日のナマエはこちらが戸惑う程に愛らしい。
今も山崎はぎりぎりの線上で、彼女を掻き抱いてその着物を乱し、深く口付けたい欲を我慢していた。
出来るならば目茶苦茶にしてやりたい。
ふとそんな凶暴な衝動にも駆られるが、それは心の隅に追いやった。
今日は共歩きを楽しもうと決めたばかりだ。
土産に団子を包んで貰い、二人は茶店を後にした。
山崎は整備された街道を行くのではなく、地元の農民が使うような少し荒い裏道を選んで行く事をナマエに話した。
無言で手を差し出しながらそれを言う山崎から、ナマエは彼が言外に何を言いたいのかを汲み取ったようだった。
手を繋いで行きたい。
人通りの多い街道ではその姿が目立つため、人目のほぼ無い荒い道を行こう、と言うのだろう。
『参りましょうか』
返事をしたナマエが、差し出された手に自分のそれを重ねる。
山崎がゆるゆると手を動かして互いの指を絡めると、彼女は一度瞠目して、それから面映ゆそうに笑った。
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