珍しく早くに仕事が終わった。
この花の金曜に定時で上がれる事は正直貴重だ。
だって、空いた時間の分だけ酒が呑めるって事だろ?

いつもなら此処で平助と新八を誘って飲みに行く所だが、毎度毎度野郎ばかりと呑むのも何となく空しい。

『…』

そこに浮かんだ、一人の女の姿。
ナマエ。千のやつが開いた合コンで俺はあいつに一目惚れし、事もあろうに突然現れた斎藤に横取りされた。

あん時味わった苦い感情は人生で初めてだ。
随分経った今だってまだ忘れちゃいねえ。

あれからどれだけ色んな女と接してみても、俺の心は笑っちまう位に心の何処かでナマエと比べてやがる。

そこで俺は考えを改めた。

たとえ他人のもんだって関係ねえ、隙あらば斎藤からナマエを奪う。
そう思って今もこうして、わざわざナマエに声を掛けにこのフロアに来たって訳だ。

サシ呑みだと断られるかもしれねえから、千と一緒に誘ってみるか。
千はまた“私をダシに使うな”っつうだろうけどな。

ナマエを探して辺りを見回してる所で総司が声を掛けてきた。
お疲れ、と返してやると、

『誰か探してる?もしかして、ナマエちゃんだったりして』

なんて言ってきやがった。
前から鋭い奴だとは思ってたが、こうまで的確だとまるでエスパーだな。

『よく解ったな。
見当たらねえみてえなんだが…お前何処行ったか知ってるか?』

ドンピシャすぎて思わず苦笑いで答える。
すると総司は意味ありげに目を細め、

『たった今退社した所だよ。
ちょっと急げば間に合うんじゃない?』

と返して来た。
なるほど、腹の底までは読めねえが、どうやら俺の味方をしたいらしい。
曖昧に濁さずにストレートに情報をくれる辺り、俺にナマエを会わせてえ何かがあるんだろう。

ま、こいつが考えてる事なんかどうせ解らねえから、今はまんまと策にはまってやるとするか。

『おう、そうか。
…そんじゃあちょっと、行ってみるわ』

『うん、いってらっしゃい』

何処か黒さを感じる満面の笑みに見送られて、俺はこの場を後にした。

『…お、』

エレベーターを見ると丁度行ったばかりだった。
あれに乗ってたかも知れねえ。

…次のを待ってたんじゃ追いつけねえだろうな。
非常階段から階下へ向かう事にして、俺は重い鉄の扉を強く押した。

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