定時になった。
あれからお陰様でしっかりと集中出来、何とか人前に出せるレベルにまでなった。

今日は花の金曜日。
土日休みな事も手伝って、これから大好きな人の家に行く私は少し浮かれていた。

少し首を伸ばして、向こうの席の斎藤君をチラ見する。
こちらに背を向けた彼の手はキーボードを叩き続けていた。
まだ終わらないのかもしれない。

どうしようかな、と思いながら片付けを始める。
合鍵を貰っているので先に行っている事は出来るが、できれば一緒に帰りたい。

途中で食べ物を買う都合もあるし、と、誰とは無しに言い訳じみた言葉を胸の中で呟く。
要は一秒でも長く共に過ごしたいのである。

鞄に入れたケータイを取り出すと、いつの間にかメールが一通入っていた。

『!』

差出人は斎藤君だった。
少し鼓動を早めてメールを開く。

『“すまない。あと少しだけ掛かりそうだ。申し訳ないが、いつものカフェで待っていて貰えないだろうか?”』

此処でいう“いつものカフェ”は、斎藤君の家の最寄駅の方。
会社の側にも同じ店があるけれど、そちらだと誰に見られるか解らないからと、私たちは待ち合わせというと離れた場所のカフェを利用していた。

了承した旨の返事を送って、もう一度彼の背中を見る。
机に乗せてあったケータイが震え出すと、斎藤君は素早く取り上げて中を開いた。

『…?』

長い文章は打ってないはずなんだけど、斎藤君は少しの間ケータイを持ったまま固まっていた。
何だろう、と思っていると徐に指が動いて文字を打ち出した。
そしてまたケータイを机に置き、こちらを見る事なくパソコンへ顔を向けた。

手の中でケータイが震えた。
こんなに近くにいるのに、わざわざメールで会話をするのが何だか面白い。
緩みそうになる口元を逆の手で隠し、届いたメールを開く。

『“気遣い感謝する。終わり次第すぐに向かう。”』

無骨な感じがこれまた堪らない。
ああもう、斎藤君が好き過ぎるよ。
ケータイを鞄にしまって、私は恍惚の溜め息を吐いた。

シャットダウンもしたし、引き出しに鍵も掛けた。
資料は全部片付けたし、というところで、千ちゃんがキャスターを勢いよく滑らせて椅子のまま私の所へやってきた。

『ナマエちゃーん!』

『わっ、なに、ちょっと』

彼女の背凭れを両手で受け止めると、千ちゃんはニヤッと笑って私を見た。
うわ、嫌な予感。

『私ももうすぐ終わるからこれから飲みに行こうよ、って言おうとしたんだけど〜…』

含みのある間延びした語尾。
私があからさまに苦い顔をすると、

『…今夜は何かご予定があるのかしら?』

ほらきた。恋愛事に鼻の利く千ちゃん。
彼女は何か確信があってこんな言い方をしているに違いない。
じゃなければこんなニヤついた顔しないもの…!

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