十二
『お、』
お初にお目にかかります、とナマエが挨拶をしようとした所で、目の前のミョウジの顔が何かを訝る様に歪んだ。
つい言葉を飲み込むと、ミョウジは大きなお腹を抱えてゆっくりと立ち上がり、小股でナマエのもとへ近付いた。
『…?』
一同がミョウジの行動を黙って見つめ、ナマエもまた訳が分からない、といった顔で目の前に座した風間家正室を見ていた。
『どうしたんだよ?』
不知火の問いに小さく、いえ、と返して、ミョウジは徐にナマエの腹に手の平を当てた。
少し驚いて肩を跳ね上げるが、ミョウジは意に介していないようだった。
『…ナマエ様、』
やや険しい顔で上目遣いに自分を見るミョウジに、呼び捨てでようございます、と返す。
ミョウジは瞬きを二度程して、では、と言葉を継いだ。
『ではナマエさんと呼ばせて下さい。
…ナマエさんは、ご自身のお身体の状態をご存じの上でご足労くださったのですか?』
言っている意味が解らない。
ナマエが素直に顔に表すと、ミョウジは、やはり、と小さく呟いた。
風間は真意を推し量ろうと微かに目を細め、不知火は首を捻った。
男鬼はどちらも黙ってしまい、陽は睡魔に抗えずにとうとう眠ってしまったようだった。
『あの、一体何を…?』
ナマエが怖々と尋ねると、ミョウジは一瞬口にするのを躊躇ってから、そっと耳打ちをしてきた。
『…!』
気配に聡いという風間家正室のその言葉を聞き、ナマエは思わず目を丸くした。
『左様でございますか』
真っ直ぐミョウジを見つめ、ついつい聞いてしまう。
彼女が嘘を言っていると思っている訳では無いが、やはり俄かには信じられなかった。
ミョウジが真剣な顔で頷くと、焦れた不知火が答えを急かした。
『だからどうしたってんだよ?
俺らには言えない事か?』
ミョウジが普通に言わずに耳打ちしたのは、自分が明かすべきでは無いと思ったからだ。
ミョウジが促すようにナマエの名を呼ぶと、ナマエはぎこちなく夫の方へ顔を向けた。
『…子が、出来たみたいです』
震える唇が発した言葉は、瞬間場に静寂を齎(もたら)した。
そして次に、
『…っしゃあああ!』
という不知火の歓喜の叫びが広間を満たした。
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