その日の朝は、一日が始まった時から屋敷内全体が何となく浮き足立っていた。

不知火様が再びこの里においでなさる。
しかも此度は、御自身の奥方と御子を伴われるそうだ。

外から客がやってくるという事があまりない風間の里に貴賓を迎えるとあって、屋敷勤めの鬼達は皆そわそわしてしまうのであった。

しかもその貴賓は不知火とその家族。
かつて長く逗留していた彼は、此処の鬼達にとって風間家の一員も同じ、という感覚があり、客を迎え入れるというより、家族が帰って来る、という思いが鬼達の心の中にあった。

浮き足立っていたのは風間家の三つ子達も同じであった。

自分達にあまり記憶は無いが、誕生の時から自分達を知り、とても可愛がって良く遊んでくれたという不知火がやってくると聞かされた時から、この日が来るのを指折り数えて待っていた。
長男などは興奮のあまり昨晩から熱を出し、今も床に臥せっている。

また、自分達より年が下の子も来るとあって、間もなく兄・姉となる三つ子達は年上の兄や姉らしく振舞わねば、と意気込んでいた。
自分達が使っていた遊具や玩具を用意して、不知火の子を如何にして持て成してやろうかとあれこれ計画している。

子たちのそんな姿を目にし、ミョウジは母の顔で優しく微笑んだ。

彼等の成長を見ると、それだけ時が過ぎたのだなと思う。
京にいた時から知る不知火が妻を娶り、子まで儲けた。

何処か奔放で自由な風を纏っていたあの不知火がひと所に落ち着くなど、ミョウジには少し想像し難かった。
詳しくは聞いていないが、不知火の心を奪ったという女鬼は混血であるらしい。
それを思うと、骨のある人間は認め、人間の親友を持っていた彼らしいと強く感じる。

一体どの様な女性なのだろう。

庭が見渡せる廊下に佇んで爽やかな風を受けながら、未だ見ぬかの人へ思いを寄せる。
そして人間を虫螻(むしけら)と呼んで蔑む夫をふと思い、波風が立たないと良いのだけど、と案じた。

ミョウジは風間が執務を行う部屋の方へ顔を向け、心配そうに目を細めた。

風間は普段通りに頭領の務めを果たしていて、今も部屋に籠っている。
口では“里内が喧しくなる、さっさと帰らせろ”などと言っているが、それほど嫌がっている様子は無く、もしかしたら満更でもないのでは、とミョウジは思っていた。

つまる所、誰もが皆不知火家の到着を待っているのであった。

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